主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
Ⅰ はじめに
山地や丘陵地における地形改変を伴う大規模宅地造成は、戦後から高度経済成長期にかけて多く行われてきた。しかし、1978年に発生した宮城県沖地震では、仙台市周辺の大規模宅地造成地において、亀裂や崩壊などの地盤災害が発生し、1995年に発生した兵庫県南部地震でも造成地における崩壊などの被害が報告されている。造成地に対する災害対策としては、1962年に宅地造成等規制法が施行され、今日に至るまで内容の改正が行われている。近年では、2021年に熱海市で盛土が崩壊し、甚大な被害をもたらした。2022年5月には、宅地造成等規制法が一部改正された「盛土規制法」が公布された。 令和3年には、災害対策基本法が改正され、個別避難計画書の作成が市町村の努力義務となった。以前、広島県で発生した豪雨災害では、避難の途中で犠牲となった人もいたことが報告されている。特に、高齢者とりわけ災害時要援護者(対象者)に該当する人たちが、土砂災害等で犠牲となっている。 本研究では、三浦半島における大規模宅地造成が行われたエリアにおいて、旧版地形図や空中写真などを用いて、地形改変の規模を明らかにする。そこから想定される災害リスクを推測し、最終的には災害時要援護者が避難を行う際のルートの安全性について検討することが目的である。
Ⅱ 対象地域
対象地域は、三浦半島の大規模宅地造成地である。対象地域の選定基準は、主に二つあり、一つ目は、1960年代前後に開発が行われた造成地であること。二つ目は、造成の面積が大きくかつ、高齢者が比較的多く居住している造成地であること。
Ⅱ 分析方法
地形改変の規模を抽出するため、改変前・改変後の地形図をそれぞれトレースし、そこから等高線を読み取り、地形改変の規模を抽出した。避難ルートの検討では、地形改変の規模を抽出した上で、桂・星野(2007)が明らかにした高齢者の歩行速度を参考に、0.4m/sの歩行速度で、設定した避難ルートにおいて実証実験を行った。
Ⅳ 結果・考察
対象地域の造成地において、地形図のトレースから地形改変の規模を抽出した。その結果、盛土は最大で27m、最小で1mされていることが分かった(図1)。避難ルートに関しては、切土地だけのルート(A1・A3)と盛土・切土のルート(B2・B4)を作成し、計測を行った。その結果、避難にかかる時間は、事前に検索した所要時間よりも3倍多く時間を要することが分かった。また、切土地では傾斜地が多く、避難を行う際に身体的負担が大きいと考えることができる(表1)。
Ⅳ おわりに
個別避難計画書を作成するにあたり、坂や階段など地表に表れている個所だけでなく、その箇所が盛土地なのかそれとも切土地なのかなど、土地条件を把握して作成する必要がある。
参考文献
田村俊和・阿部隆・宮城豊彦(1978):丘陵地の宅地造成と地震被害-1978年宮城県沖地震の被害を例として-,総合都市研究(5),115-131.
桂敏樹・星野明子(2007):地域後期高齢者の閉じこもり予防のための歩行移動能力の維持に関する要因,日健医誌16(1),17-24.