主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
1. 研究の目的
本研究では,母子世帯の空間的な分布と公的支援の実施状況の関係性を,政令指定都市(以下,政令市)・中核市に着目し分析する.母子世帯への公的支援は,2000年代以降に地方自治体の裁量が大きくなり,地域格差が生じていると指摘されている(近藤,2013).本研究は児童扶養手当を受給している母子世帯に着目し,政令市・中核市の公的支援の実施状況との関係を分析する.
2. 分析方法・データ
まず,全国の市区町村データをもとに,空間統計手法のGlobal Moran’s I, Local Moran’s Iを用いて,母子世帯の空間的なクラスタリングパターンを特定する.次に各クラスター分類で,一般世帯に占める児童扶養手当を受給している母子世帯の割合(以下,受給世帯の割合)が異なるか,2020年度時点で政令市・中核市である80市を対象に分析する.最後に,公的支援の実施状況毎に政令市・中核市を分類し,受給世帯の割合を比較する.分析年は2010年,2015年,2020年とする.
Moran’s Iには母子世帯数(母と子供のみ)を一般世帯数で除した母子世帯率を用いる.母子世帯数,一般世帯数は「国勢調査」のデータを用いる.受給世帯の割合は児童扶養手当を受給している母子世帯数を一般世帯数で除して求める.児童扶養手当の受給母子世帯数は離婚の母子世帯を対象とし,「福祉行政報告例」のデータを用いる.公的支援の実施状況は厚生労働省の「母子家庭の母及び父子家庭の父の自立支援施策の実施状況」の「各自治体の取り組み状況」を用いる.事業は最大で2010年:7種類,2015年:9種類,2020年:10種類で,市ごとの事業実施数(実施割合)を分析に用いる.
3. 分析結果
Moran’s Iの分析では,hot spots (HH)に大阪市・和歌山市・福岡市・宮崎市・那覇市等が,cold spots (LL) にさいたま市・船橋市・横浜市や,富山市・長野市・豊田市等が含まれた.前者は近畿・九州地方に,後者は北陸~東海地方に多く分布していた.Hot spotsでは受給世帯の割合が高く,cold spotsでは低い傾向が見られた.
分析対象の80市を公的支援の実施数をもとに四分位で分け,4グループそれぞれの受給世帯の割合の平均値を比較した.結果,最も支援の実施率が高い第1グループで,受給世帯の割合が低い傾向がわかった.割合が最も高いグループは年によって異なるが,その差は最大で約0.3-0.4パーセントポイントである.最も支援が実施されているグループは財政力指数の平均値が最も高く,財政的な要因が影響している可能性が示唆される.
主要参考文献
近藤理恵 (2013) 『日本,韓国,フランスのひとり親家族の不安定さのリスクと幸せ:リスク回避の新しい社会システム』.学文社.
謝辞
本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号:20J22386)の助成を受けた.ここに謝意を表する.