日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 109
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奄美群島での個別避難計画の策定と情報共有
東日本大震災時の「避難行動要支援者」の避難事例を顧みつつ
*岩船 昌起
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抄録

【はじめに】内閣府(防災担当)「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」が2021(令和3)年5月改定され,避難行動要支援者にかかわる名簿の作成および個別避難計画の策定が自治体の努力義務とされている。これには,業務の“縦割り”を越えて,救助者等の総務・危機管理系と日常介護者等の保健福祉系の連携・協働が求められ,かつより実効的な計画の策定には,訓練を介して計画改善を繰り返すPDCAサイクル等,支援者間のコミュニケーションの強化と継続が必要である。本発表では,東日本大震災発災時の要配慮者の避難事例分析から個別避難計画の要点を確認し,これを生かして宇検村で策定中の個別避難計画,および「奄美群島総合防災研究会」での情報共有の動向を報告する。

【東日本大震災での事例】被災者の避難行動をパーソナル・スケールで時空間的に整理し,大縮尺の地図と対比できる災害記録として残すため,岩手県山田町や宮古市で体験者本人への聞き取り調査を継続している。その中で「避難行動要支援者」相当の要配慮者の避難事例が収集されている。①体重約80㎏で要介護3相当の70代男性を,津波で床下浸水が進む中で40代息子と70代妻が2階に上げられずに階段途中に止まった事例,②体重約70㎏で要介護3相当の80代男性を,津波で首まで浸かりながら娘2人が自宅から約10 ⅿ離れた山裾まで運び,さらにその男性を毛布に包んで縄で縛り,女性4人で約100 m搬送した事例等から,要配慮者(要救助者)の体重や支援者(救助者)の搬送能力(体力)等の整理記述が,個別避難計画では大変重要なことが分かる。

【個別避難計画策定の動向】兵庫県の事例等では,「早めの避難(予防的避難)」を念頭におき,高齢者等避難(レベル3)で避難できるためのマイタイムラインを作成している(内閣府HP)。令和2年7月豪雨災害では,気象庁警報等発表が遅れ,早めの避難ができずに多くの高齢者が犠牲になった。津波等による突発的な自然災害も考慮すると,個別避難計画を予防的避難中心で作成せずに,「緊急安全確保(レベル5)」時にも計画しておくべきである。特に,搬送関連情報の整理・共有は,より困難な状況下での避難者全員の生存の可能性を高めることにつながる。

【宇検村で防災事業】現在,奄美大島宇検村では,次の防災事業を進めている。A. 住家の安全・危険性の確認のため,測量により集落ごとに浸水・被災の過程を考察(2022年4月完了)。B. 高潮警報等の基準「危険潮位」の設定(2022年5月31日宇検村防災会議で決定)。C. 宇検村全員避難計画に向けて,特にレベル5(緊急安全確保)以降を考慮しての災害種・規模に応じた避難者の明確化(2023年以降で実施)。D. 一人当たりの十分な居住空間を考慮しての個人宅等,分散避難先の確保,および学校避難所の再整備等を行い,避難場所を全住民個々の空間を確保して明示(2023年以降で実施)。そして,CおよびDの全員避難計画に先駆けて,E. 避難行動要支援者の個別避難計画と,F. これに連動する福祉避難所の再検討を優先的に行うこととしている。

【宇検村での個別避難計画】南西諸島「高島」の模試的な地形特性を有する宇検村では,山と海に囲まれた標高約5 m以下の沖積低地に全人口1600強名の9割程度が居住している。土砂災害および津波高潮災害のリスクが高い上に,住家の大半は木造1階で,RC造2階以上の建物が少ない。一方,都市の人口密集地域等に比べて人間関係が厚いという特性もある。現在,役場が立地する湯湾区をモデルに,宇検村保健福祉課保健師等と対象者宅への個別訪問も行い,個別避難計画のひな型を整理中である。これには,前章のA. 集落ごとの浸水・被災の過程,B. 高潮警報等の基準「危険潮位」が考慮されており,「在宅避難(屋内安全確保)」と「立退き避難」のどちらを選択するかの基準も明記されている。また,東日本大震災での事例から必要とされた「要配慮者(要救助者)の体重や支援者(救助者)の搬送能力(体力)等」の情報も整理されている。

【「奄美群島総合防災研究会」での情報共有】宇検村での防災事業は,特に「高島」の地形特性等,類似の地域性を有する奄美群島の自治体では,参考になることから,鹿児島大学,奄美群島北部6自治体,鹿児島県大島支庁,鹿児島県危機管理防災局災害対策課・危機管理課,鹿児島地方気象台名瀬測候所等で,「奄美群島総合防災研究会」を立ち上げ,情報共有している。今後,難病患者の個別避難計画や地区防災計画の策定等を進め,このプラットフォームを通じて,奄美群島で情報共有し,地域防災力の総合的な向上を図りたい。

謝辞:本研究は,科研費基盤(C)「避難行動のパーソナル・スケールでの時空間情報の整理と防災教育教材の開発」(18K011466)の一部である。

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