日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 206
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霜柱が運ぶ礫の大きさと移動速度
*松岡 憲知
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抄録

周氷河環境下では季節的凍結融解に伴う巨礫(ploughing boulders)の運搬やその速度の観測例があるが,地表面すれすれに発生する霜柱で運ばれる礫の大きさの限界や移動速度については十分にわかっていない。南アルプスでの21年間(2000~2021)の凍上と礫移動の観測に基づいて,これらの課題について報告する。観測地では岩礫斜面の一部が砂礫質のローブ(幅2~3 m,長さ15 m)となっており,表層は径5cm程度までの角礫を含む細粒土層(厚さ20 cm)で構成され,地表には径数十cmまでの角礫も見られる。傾斜12°のローブ上方で凍上・地温(以上1ないし3時間間隔),気温・降水量(10分ないし1時間間隔)を無人で記録し,現場で撮影した写真から特定できる地表の礫12個(径9.7~26.6 cm)の年間移動量を計測した。

 凍上はほぼすべてが日周期性または数日周期性で,年間の発生頻度が24~85回(平均62回),最大凍上量が1.8~5.6 cm(平均2.5 cm),積算凍上量が18~59 cm(平均42 cm)であった。発生頻度は積算凍上量とほぼ比例しており,凍上の大半が霜柱によるものと判断される。礫が変位計の下を通過し,見かけの凍上量を押し上げたことも3回発生し,礫の通過中も霜柱型の凍上が発生した。

  年間移動速度は3.7~16.0 cm(平均8.9 cm)の範囲にあり,多くの礫が数年で撮影範囲から消えるのに対し,最大礫は21年間特定され,合計移動量は80 cmであった。この礫(高さ20 cm)が2021年春に変位計に衝突して記録不能となり,観測が終了した。礫の移動速度は礫の大きさと有意な比例関係があり,両者の関係を線形近似すると礫径約30cmまで霜柱で動く可能性がある。 21年間において,年平均気温は0.024℃/年,同地表面温度は0.078℃/年で上昇し,凍上についても発生頻度は0.13回/年,積算凍上量は0.53 cm/年で増加した。変位計を固定したフレームが21年間で15°前方に傾いたため見かけの凍上量は3.5%上昇しているが,それを差し引いても増加傾向にあった。温暖化による積雪期間の減少が霜柱の発生に有利に作用しているのかもしれない。

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