日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 307
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市民参加型映画の出演者と鑑賞者の意識について
門真フィルムコミッション制作映画を事例として
*石原 肇
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抄録

1.背景と目的

 筆者はコロナ禍の2020年度から行われている大阪府門真市駅周辺のエリアリノベーションに向けた社会実験の取組みを報告した(石原,2022a).この社会実験では,様々な取組みが行われたが,その中で公共空間である高架下の道路において薄暗いという空間の特性を活かした映画上映が高架下シアターとして特定非営利活動法人門真フィルムコミッション(以下,KFC)によって行われていた.日本の一般的なフィルムコミッションはロケーション撮影を誘致する役割を担っている.KFCは,門真国際映画祭の開催,市民参加型映画の制作,社会実験などの地域イベントへの参画等の取組みを行っている.筆者はKFCによるこれらの取組みを把握し,映像を通じたまちづくりを行っていることを明らかにした(石原,2022b).

 コロナ禍になる前の2019年1月にKFCは門真市シルバー人材センターから設立40周年記念事業の映像撮影の依頼を受ける.SDGSをコンセプトに映画「門真市ゾンビ人材センター」を発案している.その後,この映画は完成し,2021年8月13日に門真市シルバー人材センター主催の「シルバー夏フェス」において上映に至っている.KFCの制作したこの映画は,2022年3月5~12日に開催された福井県あわら湯けむり映画祭で入選している.また,同映画は同年3月にドイツの第23回ハンブルグ日本映画祭で受賞し,同年6月26日に上映されている.さらに,同年7月28日に開催されたスペインのバルセロナ国際映画祭では外国語短編映画部門でのグランプリを受賞した.以降も次々と国内外の映画祭で受賞や入選をし,脚光を浴びている.

 これまで岩下(2017)が群馬県高崎市で撮影された映像作品に関する市内高校生の意識調査を行い,地元への愛着が高まると報告している.しかし,市民参加型映画への出演者やその映画の鑑賞者への意識調査はみられない.そこで本研究では,国内外で高い評価を得ている映画「門真市ゾンビ人材センター」への出演者やそれを観た鑑賞者が,映画の受賞や撮影の舞台となった門真市をどのように思うか意識調査を行った.

2.研究対象地域および研究方法

 門真市は,大阪府北河内地域に位置する市である.大阪府の北東部にあり,市域は東西4.9km,南北4.3km で,面積は12.30 ㎢,人口は119,764人(2020年国勢調査)である.門真市は,もともと穀倉地帯であり,河内蓮根が特産物であったが,急激な都市化が進み,農村地帯から産業都市へと移行し,現在は東大阪工業地帯の重要な位置を占めている.

 この映画の出演者は門真市シルバー人材センターの会員,同センター職員,KFCのゾンビメイク講座の受講生等の一般市民であり,多くが門真市民である.2022年8月10日から,門真市シルバー人材センターあるいはKFCを通じて調査票によるアンケート調査を行った.1ヶ月の回答期限とし49名からの回答が得られた.この映画は,2022年11月19日に旧門真市立北小学校跡地活用のために行われた社会実験「キタショウカーニバル」,2022年11月23日に開催された「弁天池公園ふれあい感謝祭」において屋外シネマで上映された.これらの機会に門真市シルバー人材センターの了解・協力を得て,鑑賞者への調査票によるアンケート調査を実施し,回答者は35名であった.質問事項は,年齢,性別,居住地等の属性と,この映画や門真市に関する事項についてである.

3.結果と考察

 出演者の多くが映画の出演,映画の受賞,映画が撮影された門真市等を好意的に捉え誇らしく感じていた.また,鑑賞者の多くが映画の鑑賞のみならず,出演者と同様に映画の受賞,映画が撮影された門真市等を好意的に捉え誇らしく感じていた.なお,鑑賞者の今後の映画撮影への協力に関する回答については出演者のそれと比較してやや消極的な傾向にあった. 映画「門真市ゾンビ人材センター」のような市民参加型映画が国内外の映画祭で受賞・入選することは,出演者や鑑賞者の地元への誇りを醸成する可能性が示唆される.

参考・引用文献

石原 肇 2022a.コロナ禍におけるエリアリノベーションに向けた社会実験-大阪府門真市の事例-.地域活性研究 17:177-186.

石原 肇 2022b.コロナ禍における門真フィルムコミッションによる映像を通じたまちづくりの新しい形.地域活性学会大会論文集 14:29-32.

岩下千恵子 2017.映像作品撮影実績が地域住民に与える影響に関する考察:高崎市の高校生を事例として.高崎商科大学コミュニティ・パートナーシップ・センター紀要 3:31-38.

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