主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
山頂現象は,冬季季節風及びそれに伴う積雪状況,温度環境の変化を主な要因として,山頂付近と他の場所で異なった植生が成立していることを示す現象である。 大佐渡山地は,標高1,000m程度であるが,尾根部で高山帯に類似した植生の分布が見られ,冬季季節風の影響による山頂現象の発生が確認されている(瀬沼 1981,目代・小泉 2007)。 さらに大佐渡山地北部においては,尾根部に加え,北西斜面上でも同様の植生が成立していることが報告されている。蒲澤(2021)は斜面上での植生を,山頂現象と同様に冬季季節風による影響で発生したものであるとし,内部での植物の住み分けに関しては,冬季季節風が生む積雪の不均一とそれに伴う凍結融解による微地形や土壌の変化に影響を受けている可能性を指摘した。しかしながら,上記の環境要因はそれぞれ定性的な調査に留まっており,植生との詳細な比較は十分でないと考えられる。 本発表では,2022年8月と11月に行った現地調査の結果から大佐渡山地の北西斜面に分布している植生を整理すると共に,植生と他の環境要因の関連性についての比較を行った。 大佐渡山地北部における標高約810mの微小な凹凸が見られる北西斜面上に成立する風衝草原に4×4mのコドラートを設置し,Braun-Blanquet法を用いた植生調査を行った。また,測量を行い,微地形をもとに表層の土壌含水量,電気伝導度,pHの計測を実施した。 植生調査の結果,高山植物4種を含む合計17種の植物が生育していることが確認された。そのうち多くの植物がパッチ状に分布していた。植物の分布と微地形の対応を確認したところ,斜面上凸部では草本類,緩やかな斜面部では木本類がみられる傾向にあった。凹部では裸地がみられたが,出現植物に傾向はみられなかった。高山植物は木本類と同様に緩やかな斜面上に分布が偏っていた。 凹部でのpHは凸部に比較して低くなる傾向がみられた(pH5.1→6.1)。主に木本類の成立する場所において低く,草本類では高いことを示している。凹部,緩やかな斜面部,斜面上凸部での平均的な土壌含水量を比較した結果,その差は極めて小さく0.008㎥/㎥程度であった。この結果から,植物の住み分けが必ずしも土壌含水量と関係していないと考えられる。 また,出現種内唯一の常緑樹であったハクサンシャクナゲは,緩やかな斜面部に分布していたほかに微起伏の南側に大きく広がっており,北西方向からの冬季季節風に直接晒されにくい場所での分布が目立つ。ハクサンシャクナゲの被度割合は8月時点で8.7%ではあったが,ホツツジ優占地点の下部に幼樹が入り込んでいたことから被度以上に広く分布していることが予想された。ホツツジの落葉後の11月に同様の調査を実施したところ,被度割合が14.7%を示した。これは乾燥害を受けやすい常緑広葉樹であることから生育に一定の湿度が必要であるハクサンシャクナゲの分布が,乾燥害を受けにくい箇所に偏ることを示すと考えられた。