日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 215
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空中写真を用いた過去80年間のサンゴ礁生態系変遷の復元
*佐野 亘木村 颯
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抄録

1. はじめに 

近年,人為起源の海洋汚染や地球温暖化などに伴う海水温や海水準の上昇がサンゴ礁や海藻・海草藻場,マングローブ林などといった沿岸生態系へもたらす影響が懸念されている.これらの沿岸生態系は魚類や底生生物の生息の場であると同時に,栄養塩などの物質循環や炭素循環において重要な役割を担っていると言われている(Unsworth et al., 2018; Nellemann et al., 2009).2022年の夏季には琉球列島において2016年以来となる大規模なサンゴ白化現象が確認され,今後のサンゴの回復などサンゴ礁の環境変動に注目が集まっている.本研究の研究対象地域である沖縄島北部に位置する本部町備瀬のサンゴ礁は,沖側にリーフクレストが発達した閉鎖的な裾礁型のサンゴ礁である.浅礁湖の海浜側には海岸線に沿って約16haの海草藻場が形成されている.この海草藻場は南部と北部で種構成や底質環境が異なることが報告されており,北部は砂地に海草であるベニアマモが,南部には海草であるリュウキュウスガモとエダコモンサンゴが同所的に生息している(佐野2022).また備瀬において共存するリュウキュウスガモとエダコモンサンゴには共生関係があることが指摘されている(Higuchi et al., 2014).このような沿岸生態系を有する場所が過去にどのような変遷を辿ってきたのかを理解することは,今後起こりうるさまざまな環境の変化に沿岸生態系がどう応答していくかを予測する上で非常に重要である.そこで,空中写真判読によって過去の沿岸環境を把握すると同時に現地調査を実施した.現在の状況を詳細に把握し現在の空中写真と照合することで,過去の空中写真との比較を行った.

2. 現地調査と空中写真判読 

2020年から2021年にかけて4度の現地調査を実施した.海岸線から垂直に側線を設定し,地形断面測量とサンゴ群集や海草群落を記載した.過去の空中写真は1944〜1993年のものを国土地理院より,2005〜2019年の空中写真をGoogle Earthより用いた.また2021年の空中写真はRTKドローンを用いて自ら撮影した写真を用いてオルソ画像を作成した.

3. 結果

現生のサンゴ群集はリーフクレスト背後と浅礁湖南部にエダコモンサンゴの巨大群集が確認された.またパッチ状にユビエダハマサンゴの群集も確認された.空中写真判読の結果,現生のエダコモンサンゴ群集は1989年以降に出現したことが明らかになった.一方,最も古い1944年の空中写真からは浅礁湖内全域にサンゴが生息していることが確認でき,1989年にかけてその被度が減少していく過程が見てとれた.

4. まとめ・課題

1944年から2021年までの空中写真を用いて,備瀬のサンゴ礁内の生態系の変遷を詳細に明らかにすることができた.今後は,サンゴ群集や海草群落の増減を面積などを算出することで定量的に評価していく予定である.一方,1940年代以降のサンゴ被度の減少の要因を明らかにするには至っていない.また,1940年代以前に生息したサンゴが,現在の群集を構成しているサンゴと同種であるのかについても不明である.過去数十年間の海水温や塩分の履歴は,堆積物や塊状サンゴのコア試料の化学分析によって明らかにすることが可能である.また,過去に生息したサンゴ種などについては地元住民への聞き取り調査によって確認を行っていく方法がある.今後は本研究で空中写真を用いて明らかにした結果に地球化学分析や聞き取り調査などを組み合わせることで,過去80年間の環境変化を詳細に明らかにしたいと考えている.

謝辞:本研究は,2020〜2022年度JSPS特別研究員奨励費JP20J22368,2020〜2023年度JSPS科研費JP20H03329の助成を受けたものです.

引用文献

佐野 2022. JCRS 24(1). pp. 25-27

Higuchi et al. 2015. Int. J. Mar. Sci. 4 : 1-15

Nellemann et al. 2009. Blue carbon. pp. 35-44

Unsworth et al. 2018. Conservation Letters, Vol. 12. pp. 1-8

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