日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S201
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「関東大震災から百年:あらためて何を学び「地理総合」でいかに教えるか」
シンポジウムの趣旨
*鈴木 康弘宇根 寛田中 靖
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抄録

1. 本シンポジウムの問題意識

 1923年関東大震災から百年経ち、次の首都直下地震に備える地震防災の必要性が指摘されている。一極集中が過度に進んだ首都で地震災害が起きれば、その影響は日本全国に及び、「国難」につながりかねないとも指摘されている。東京および日本の将来を考える上でも、関東大震災の教訓は重要であることは疑いようがない。

 しかしながら、関東大震災についての関心は必ずしも高くないように思われる。10万人を超える犠牲者を出した我が国最悪の震災であったことは知っていても、その具体的な災害像や原因、教訓はどれほど認識されているだろうか。火災による死者が多かったが、現代の都市は不燃化が進み、同じような危険はないと漠然と思っているのではないか。また、次の首都直下地震は関東地震より小さなM7クラスと予測されるため、それほど大きな被害は起きないと高をくくっている人もいるかもれない。しかし一方で、大正時代とは比べものにならないほど、日常生活や経済活動をめぐる社会システムが複雑化し、それらが相互に依存しているため、どのような災害連鎖が起きるか予想しづらい状況も生じている。建物が過密になり、街中に地震時に危険性を帯びるものが多くなった。超高層ビルが停電すれば、ビルから出ることすらままならなくなる。オフィスからあふれた帰宅困難者の密集は2022年10月の韓国の群衆事故を思い起こさせ、緊急自動車の通行もままならず、さらには、SNSを通じてデマや不正確な情報が爆発的に拡散するかもしれない。100年前とはまったく異なるこれらの状況をどれだけの都民が想像しているのだろうか。どうしようもないという漠然とした恐怖から、思考停止に陥っているかもしれない。とくに若者はこの状況をどう思っているのだろうか。

 自然災害が改めて日本の大きな課題として注目され、2022年から高等学校で「地理総合」が必履修化される中で、防災が指導内容の柱の一つになった。しかしその教科書を見ると関東大震災は歴史的事実として年表には記載されているものの、詳しい被害の実態や教訓は整理されていない。百年前の出来事のため現代の問題とは直結しない、と考えるからだろうか。しかし、「地理総合」は「持続可能な社会づくりのため」の科目なのだから、近い将来に首都直下地震が起きるかもしれないとされる日本にとって、1995年阪神淡路大震災、2011年東日本大震災、2016年熊本地震と並んで、最重要テーマのひとつであろう。本シンポジウムにおいては「地理総合」を始めとする地理教育における災害の扱いについて検討したい。  他方、関東大震災は、その直後から多くの調査や研究が進められ、明治時代の濃尾地震とともに、地震、都市計画、防災、地殻変動等の研究の出発点となり、地理学者ならびに地理関係機関もその一翼を担った。さらに、被害軽減に向けた都市計画、まちづくり、日本の国土構造のあり方についても実践的な研究が進められてきた。本シンポジウムでは、これまでの関東地震ならびに首都直下地震関連の地理学的研究をレビューし、地震研究・地震防災研究における地理学的研究の位置づけを再検討したい。また、とくに首都直下地震の防災を考える上で重要となる課題を整理したい。

 関東大震災の教訓は、地形・地盤条件による震度の違い、防火体制や耐震建築の重要性、正確な情報伝達の重要性などに加え、都市計画や首都移転の可能性など多岐にわたる。本シンポジウムは、関東大震災研究の第一人者である武村雅之氏の基調講演からその全貌を学んだ上で、震災調査における地理学者の貢献、1970年代以降の地域危険度評価によるまちづくりの進展、さらに首都直下地震の想定、活断層認定の問題点、首都機能移転の議論の経緯、地理空間情報の役割などの話題を扱う。それらにより改めて今日的課題として整理し、「地理総合」をはじめとする地理教育への反映方法を探り、持続可能な社会づくりの観点から、若者が主体的に考えられるようにするにはどうすべきかを議論したい。

2. 議論のポイント

 以上の問題意識から、本シンポジウムは以下の点を議論したい。

(1) 関東大震災の教訓を基調講演から俯瞰的に学ぶ。

(2) 震災の教訓を現代の問題として捉え直す。

(3) 地理学はこの百年間に首都圏の地震調査や防災推進にどう貢献したかを知る。

(4) 地理的見地から地震防災の課題と地理学の役割を整理する。

(5) 「持続可能な社会づくりのための地理教育」、とくに「主体的学び」に関東大震災の教訓をどう活かすか、そのヒントを探る。

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