日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 144
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インドネシア・ロンボク島におけるASGMの特徴(第1報)
*林 武司髙樋 さち子Prasedya, S, Eka近藤 良彦成田 堅悦竜野 真維坂本 龍太
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抄録

人類は古くから水銀を様々な用途に用いてきたが,近代以降の大量の水銀の使用は地球規模での生物・環境汚染を引き起こしてきた.このため,国際条約である「Minamata Convention on Mercury(水銀に関する水俣条約)」が2017年に発効され,水銀の開発と使用が厳しく制限されている.しかし依然として,水銀は人間活動によって環境中に排出され続けており,その最大の排出源はASGM(Artisanal and Small-Scale Gold Mining)である.ASGMでは,水銀を用いて金を吸着・集積(アマルガム化)した後に,加熱し水銀を気化させて金を回収する. 多様な地下資源を豊富に有するインドネシアでは,複数の島々でASGMが行われており,世界有数の水銀排出国となっている.本研究プロジェクト(科研費番号19H04334)は,スンバワ島西部におけるASGMの実態ならびに従事者・周辺環境への影響等について調査を行ってきた.その過程において,ロンボク島でのASGMがスンバワ島のそれと異なる特徴を有するとの情報を得たことから,新たにロンボク島でも調査を行った.

 2022年12月にロンボク島中部~南部のASGM関連サイトを巡り,現地の状況を観察するとともに,ASGM従事者への聞き取り調査や試料の採取等を行った.試料については,ASGMによって生成される尾鉱や排水,ならびにバックグラウンドとしてASGMに用いる水を採取した.

 研究対象地域では,ASGMを副業としてごく小規模に行っている者が多く,そのような人々は概ね10年以内にASGMを開始していた.また,ASGM従事者間で広域的なネットワークが形成されており,分業的な体制が構築されていることが明らかとなった.ごく小規模なASGMの従事者の多くは,原石の調達から破砕・粉砕までを担当する者から石を購入してASGMを行っていた.また,そのような従事者の一部は,ASGMによって生成される尾鉱を,より大規模にASGMを行っている者に売却していた.このようなネットワークの空間スケールは,直線距離で約40kmにも達した. このような形態は,環境汚染の観点からみると汚染源が広域に移動・拡散していることを意味しており,汚染が広域で生じていることが懸念される.個々の地点での汚染規模は大きくはないとしても,ASGMの排水を地下に浸透させているところが多いことから,各地で地下水汚染が生じている可能性が考えられる.また沿岸域では,排水を海へ直接に放出している場合があり,水俣湾の事例のように海洋汚染が進行している可能性が考えられる. 一方,ASGM従事者の中には,Borax法を導入している者があった.現時点では,現地で導入されているBorax法には経済性や効率性の面で水銀アマルガム法に劣る点があり,積極的に利用されてはいないが,水銀を使用しないことや,より純度の高い金を回収できること等から,Borax法に関心や期待を有している者のあることが明らかとなった.

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