日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 401
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定額住み放題サービス利用者の日記で語られる場所
移動する中で場所感覚はどのように構築されるのか
*住吉 康大
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抄録

COVID-19の流行以後,リモートワークの普及などに後押しされる形で,近年日本では「アドレスホッパー」などと呼ばれる,各地を移動しながら暮らす人々に注目が集まっている.このような暮らしは,かつてから「マルチハビテーション」などと呼ばれ,日本の国土政策の中で度々取り上げられており,東京一極集中の是正や地方部の活性化策の一つとしての期待を寄せられることが多い.しかし,移動しながら暮らす人々が必ず地域貢献に対する意識を有するとは限らないため,一時的に滞在するに過ぎない空間や領域に対してどのような経験や感覚を持つのか,すなわち移動の途上で構築される場所感覚について十分に検討することが重要である.発表者は,移動しながらの暮らしを支えるサービスとして登場した「定額住み放題サービス」の事業者に協力を得て,2022年6月から2022年12月の6か月間にわたり,同サービスを利用する人々20名を対象に日記をつけてもらうよう依頼し,収集された日記の記述から場所感覚を考察する調査を実施した.調査実施前には,Massey(1993; 2002)で提唱された「進歩的な場所感覚(progressive sense of place)」という,多様なプロセスや関係性の総体として場所を捉える感覚を有するようになっている可能性を想定していたが,実際には固定的で一貫性のある存在として場所を意識するような記述も見られた.調査が終了した直後であるため,本発表は速報的なものであり,理論的な背景との接合や分析について不十分な点も残されている.発表時には具体的な記述も示しながら,さらなる研究の可能性について検討し,今後の補足調査や分析に活かす.

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