北海道において, 永久凍土は大雪山高山帯などの一部で確認されるのみにとどまっている. 羊蹄山(標高1898m)は後志地方に位置する成層火山であり, 山頂部は大雪山の永久凍土帯と同程度の標高を持つ. 気候モデルを用いたYokahataほか(2022)の研究によると,羊蹄山山頂部にも永久凍土の存在可能性が示唆されているが、実際の地温観測はこれまでに行われていない. そこで永久凍土の存在の有無を含め, 土壌凍結環境を把握するため, 羊蹄山山頂部西側の風衝地を中心とした地温・積雪観測を開始した.
山頂北西部(標高約1800~1850m)で調査を行った. 山頂外輪の北西側緩斜面の風衝砂礫地(北山)を9m深地温の観測点に選定した. 2021年10月から0m, 0.5m, 1.0m, 1.5m, 2.0m, 2.5m, 3.0m, 4.0m, 5.0m, 6.0m, 7.0m, 8.0m, 9.0mの計13深度で観測を開始し, 2022年10月までの約1年間の地温データを取得した. 比較対象として地表面温度をケルン, 鞍部で観測した. 積雪深観測は2022年3月10日, 4月10日, 5月21日に実施した. 各観測点で, ゾンデを積雪に鉛直に5回突き刺し, そのうち最大値を積雪深とした.
北山における9m深までの地温の鉛直プロファイルによると、2021~2022年の年最大凍結深は約2.2mと推定され, この地点では永久凍土の存在は確認されなかった. また, 未凍結の深度において地下水の移動に起因すると考えられるスパイク状の地温の変動が頻繁に生じており,この変動後に地温の上昇がみられた. ケルンにおける年平均地表面温度は, 北山よりも約0.6oC低かった. 3月の積雪深は北山で54cm, ケルンで25cmであったことから, ケルンのほうが積雪による断熱効果が小さく, 大気から土壌への冷却が伝わりやすい条件だったと考えられる. また, 札幌の高層気象観測データとして得られている800hPa面の9時および21時の気温データに基づくと, 地温観測期間における羊蹄山山頂部の気温は, 平年よりも高かったと考えられる. さらに, ケルンは北山よりもピーク状の位置であり, 地形の違いから地下水の移動によるスパイク状の地温変化が起こりにくいとすれば, より寒冷な地温プロファイルになる可能性もある. 今回の北山での観測では,永久凍土の存在は示唆されなかったが,ケルンや類似するピーク状の地点では,永久凍土の存在する可能性は残っている.