日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 443
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高等学校地理教育における地理情報
アンケート調査からわかった懸念点とその解決策
*森田 泰史
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抄録

2022年度から高等学校において「地理総合」が必履修科目として開始された。「地理総合」の大項目には地図や地理情報システム(以下、GISとする)の活用が掲げられている。地理情報に関する技能を身につけることが、これからの情報化社会を生きていく上でも重要であると期待されている。そのような地理情報をキーワードに、開始された「地理総合」の現状から導かれる懸念点とその解決策を検討したい。2022年9月に大阪府の高等学校で地理科目を担当する教員にアンケート調査を実施した。総配布数は268票で回収数は61票(ただし、1校は2名の教員からご回答を頂いた)で、有効回答は60票だった。回答を頂いた教員の専門科目は、地理科目を担当している教員を対象としたため、地理が専門の教員が56%と最も多いが、歴史や経済専門の教員が一定数存在する。特に地理歴史科であるため、日本史と世界史が専門の教員がそれぞれ約2割と多い。GIS学習への不安の有無を地理が専門科目であるかどうかでクロス集計を行った。地理が専門ではない教員の3分の2程度が不安を感じている一方で、地理が専門の教員も半数が不安を抱えている。地理が専門ではない教員は、やはり半数以上がGISを使用したことがなく実際に指導できるかを不安に感じている。地理が専門の教員はGISを使用したことがあるからこそ、実際に受験指導も踏まえた授業の中でどの程度まで指導するかに悩んでおり、時間不足という点も懸念している。実際に教員が使用しているGISに関しては、地理が専門の教員はスタンドアローン型 GISとWebGISの両方を活用している。それに対して、地理が専門ではない教員はWebGISの使用がほとんどである。無料で公開されており入門書も販売されているようなQGISやMANDARAさえも使用が少ない状況である。しかし、WebGISでもレイヤを重ねて表示したり2画面表示したりするといったGISを活用する目的は果たされる。GISに対して難しく考えてしまい使うことが目的化しているのが教員の苦手意識につながっているのではないだろうか。あくまでもGISは分析や考察、解釈をするためのツールである。GISを踏まえて地理情報に関する技能の全体を捉えた指導が求められる。教員は地理情報とそれに関する技能を学習することの重要性は十分に理解している。しかし、GISが有意義であることはわかっていても、具体例を示すだけに留まった授業になってしまいそれ以上に発展させるための余裕もしくみもない。これが地理教育の現場の現状である。専門科目や地理への苦手意識に関係なく、高いクォリティで授業を展開できるような工夫が必要不可欠である。地理科目が専門科目であるかどうかにかかわらず、高いクォリティの地理科目を展開していくには、教員自身の専門性を強みにすることが必要である。歴史が専門の教員は弱みと感じるのではく、考察や解釈で歴史的な見方・考え方を用いることで強みに変換できる。また、地理情報に関する技能を分割してみると、歴史だけでなく他教科との関連の中で指導できるのではないだろうか。これを「教科横断型地理情報」として学習することで、多面的で多角的な考察する力を涵養できると考える。さらに、地理科目が他教科との関連の中で必要不可欠なものとなることで、これからも必履修科目に定着していくきっかけになるだろう。

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