日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 711
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美濃焼産地における生産量の減少と卸売業者の経営対応
*笠原 茂樹
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抄録

Ⅰ. はじめに

 日本の陶磁器産業では,国内需要の減少に伴う,生産減少により各産地の維持・存続が課題である.日本最大の産地である美濃焼産地も同様の課題を抱えており.同産地の存続対応については,これまで一定の報告が蓄積されてきた.この中で,青木(2008)は,同産地の維持には,分業体制の中核を担う卸売業者の果たす役割が大きいと指摘した.笠原(2022)では,同産地の窯元に着目し,生産量減少への対応を報告したが,経営・生産規模により対応が分化する一方で,流通面は規模を問わず卸売業者の持つ販売力に依存しており,同産地の維持・存続には,卸売業者の動向に着目する必要性が示唆された.しかし,これまでの報告は窯元に主眼が置かれており,卸売業者に関する議論は十分ではない.そこで本研究では,美濃焼産地における生産量の減少への卸売業者の経営対応について,アンケート調査結果を中心に考察した.本研究に際して,2022年11月~12月に,美濃焼産地の卸売業者257社にアンケートを郵送し,43社から回答を得た(回答率16.7%).

Ⅱ.美濃焼産地における陶磁器の生産量減少

 岐阜県陶磁器工業協同組合連合会統計によると,美濃焼の生産額は,1984年に海外市場向け(約514億円),1991年に国内市場向け(約1206億円)および総生産額(約1437億円)がピークを迎えた.1992年以降は,生産額の減少が著しく,2022年には総生産額は291億円まで低下した.業者数も同様に減少傾向であり,卸売業者は1082社(1979年)から292社(2022年)まで減少した。

Ⅲ. 陶磁器卸売業者の経営的特色

 美濃焼産地の卸売業者は,伝統的に多治見市に集積する傾向にある.アンケート調査から卸売業者の経営規模をみると,年間出荷額1億円以下は43.9%,従業員数9人以下は73.3%,個人事業主は26.8%であり,中小零細規模の事業者が多い.うち16社は,「器蔵」や「陶雅」などのカタロググループに加盟し共同販売を実施し,取扱い品目の相互補完を行っている.土岐市陶磁器卸商業協同組合では組合主導による共販も実施している.仕入れ先は,全ての業者で美濃焼産地(土岐市・瑞浪市・多治見市)が半数以上を占め,瀬戸,有田などの国内他産地も一部でみられた.海外産地については,中国が2社でみられた.製品の仕向け先について地域別でみると,関東・近畿の大都市圏が61.4%と大半を占め,輸出も13.7%みられた.仕向け先の業態別では,消費地問屋(36.4%),直接輸出(14.3%),輸出商社(12.8%),小売店(12.8%),飲食店(12.8%)などへ出荷がみられた.一方で,岐阜県陶磁器卸商業協同組合・岐阜県陶磁器上絵加工工業協同組合連合会(1980)の調査結果をみると,地域別では,関東・近畿の比率は39.7%で,輸出は2.0%であった.また,業態別にみると消費地などの問屋が中心で小売店や飲食店への直接出荷はあまりみられなかった.

Ⅳ.卸売業者の経営対応

 陶磁器生産量減少に対する各企業の取組みとしては,製品の値上げ(19社),製品の高付加価値化(16社)などが実施されている.特徴的な取組みとしては,陶磁器製造や絵付業への参入がみられた.安価な海外製品の仕入れ拡大の動きもみられるが,現在,取組として実施するのは1社にとどまる.仕向け先は,1980年の調査と比較すると,本調査では輸出比率が拡大した.これは,輸出を専門的に担っていた輸出陶磁器完成業者が,輸出量減少の中でほとんど廃業しており,輸出の再増加の中で卸売業者が受け皿となったためと考えられる.仕向け先業態でもインターネットを活用した販路の多様化と共に消費地の問屋を介さない直接販売が増加しており,流通の短絡化によるコスト削減が進んでいる.

Ⅴ. まとめ

 美濃焼産地では,陶磁器需要減少下おいても,従前からの窯元・卸商を中心とする産地内分業が維持されている.一方で,一部の業者では,中国製品の仕入れや製販一体化の取組みがみられた.しかしこれらは,限定的な事例である.現存する多くの業者は,製品の値上げや高付加価値化による対応は勿論であるが,仕向け先地域を大都市圏への集約化した上で,仕向け先業態の多様化や短絡化を進めるとともに,輸出を拡大させることで,国内外における販路の拡大に成功し,経営を維持していることが確認された.

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