日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P065
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中学校地理的分野と公民的分野の接続を意識した防災教育実践
-新規避難所の検討と自治体への開設の要望活動を事例に-
*黒田 圭介山岡 貴秀後藤 健介
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抄録

1.はじめに

 中学校公民的分野における防災教育は社会参画力の育成を企図した教材の開発研究や授業実践が多くみられ,例えば井上(2020)では,防災福祉コミュニティー活性化の方法について考えさせて災害に強いまちづくりを担える市民育成を目指した授業実践を行い1),國原(2017)では地方議会の防災や震災地支援等に関する会議録を利用して社会的合意形成を学ばせるとともに,地域防災の課題について理解を深められる授業実践を行った2)。ここで,中学校地理学的分野での防災に関する既習事項と社会参画力育成を企図する公民的分野での学習を意識的にスムーズに接続しようとする授業実践は存外少なく,分野横断的な学びや,発達段階や地域の特徴に合わせた防災教育の必要性が重要視される昨今において,その実践例の蓄積が求められていると考えられる。

 そこで本研究では,佐賀大学教育学部付属中学校で実施した,地理的分野での既習事項を活用した公民的分野での防災教育の実践を報告する。特に本研究では,高い防災意識をもつ市民育成を目指し,地理学的知識や技術を活用しながら,妥当性のある新規避難所の開設の検討やその要望を実際に自治体に要望を行った活動を中心に報告を行う。

2.単元の概要

2-1.地理的分野:地理的分野の実施単元は別稿にて報告済みで3),中学校学習指導要領の「地域調査の手法」に該当し,避難マップを作成させた。主な既習事項は,佐賀市周辺の氾濫原地形,新旧地形図の対比や氾濫原の微地形と伝統的な土地利用の関係,ハザードマップの見方などである。

2-2.公民的分野:公民的分野の実施単元は学習指導要領の「民主政治と政治参加」に該当し,主に地方自治を取り扱った。昨年度の地理的分野の学びから見出した防災における地域の課題を,対立と合意,効率と公正,個人の尊重と法の支配,民主主義などに着目して捉える内容としており,パフォーマンス課題「防災について,自らが住む地域の行政に意見しよう」を設定した。本研究で報告するのは,全9時間の学習活動のうちの後半部分で(表1),LP (ラーニングパートナー)として,著者の一人である黒田と佐賀市役所危機防災課の職員を設定した。前者は6時間目に生徒が作成した解決案や政策案に対しアドバイスを行い,後者は8時間目に生徒が主張・要望する新規避難所に対する意見聴取を行い,後日開設の実現性の回答を行った。

3.結果

 一例として,佐賀市南部に位置する佐賀県農業大学校を新たな避難所として開設できるよう求めたグループを紹介する。このグループは地域の課題として,佐賀市南部の水害地形である氾濫原に建つ堅牢な建物を防災対策として活用していない現状に疑問を抱き,費用対効果の見方から政策の実現可能性を吟味し,6時間目にLPへその建物の避難所としての利活用の提案・要望を行った。しかし,その後LPからの回答より,地域と施設との間で避難所として使用する取り決めがあることが明らかとなり,新規に避難所指定することでその地域住民が十分に活用できない状況になるのではないかと,政策の提案を取りやめた。ただし,その地域の住民であるこのグループの一員であった生徒自身が避難所として活用できることを知らなかったことから,一部の地域住民しか知らない状況を打破するための在り方について議論する様子が見られた。

4.まとめ

 地理的分野での既習事項を活用した公民的分野での防災教育の実践を報告した。その結果以下のことが分かった。

1) 地理的分野で既習済みの地域の地形の特徴や災害リスクをもとに,避難所として妥当な建築物を選び取ることができた。 これにより,公民的分野における地方自治の学習に対して,現実味のある市民参画を体験できる活動を行うことができた。2) 新規避難所開設の要望活動を通じて,地域の諸事情を勘案しながら防災に関する議論を行うことができた。

参考文献

1)井上昌善(2020):シティズンシップ育成を目指す防災学習の論理-中学校社会科公民的分野単元「災害に強いまちのあり方を考えよう!」 の開発を中心に-.防災教育学研究,1 - 1,p. 81-92.

2)國原幸一朗(2017):地方議会における争点をふまえた公民の授業 : 東海豪雨と東日本大震災を事例として.名古屋学院大学論集 人文・自然科学篇 ,53 - 2,p. 93-106.3) 黒田圭介・山岡貴秀・後藤健介(2023):中学校地理における微地形判読を通した水害ハザードマップの評価活動事例.中学校地理における微地形判読を通した水害ハザードマップの評価活動事例.日本地理学会発表要旨集,104,p.144.

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