日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 807
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海岸林植栽基盤における土壌特性の空間変動解析―仙台平野の海岸林を対象として―
*梶原 拓人川東 正幸
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抄録

1.はじめに

 仙台平野の沿岸部では海岸林の津波軽減機能強化のために,主要植栽木となるクロマツの根系発達の促進を目的とした植栽基盤の盛土造成が行われた.人工林を形成・発達させる目的での盛土造成は極めて新しい試みだといえるが,植栽されたクロマツには生育不良が生じている.既往研究において,植栽地の気候・地形条件に大きな違いがないことから生育不良の原因は植栽基盤の土壌特性,特に土壌物理性だとされてきたが,実際にクロマツの生育状況と植栽基盤の土壌特性を関連付けた研究はない.また,クロマツの生育状況は数メートル単位で大きく変化するため,植栽基盤の土壌環境も同じスケールで変化している可能性が高い.本研究では,多地点土壌観測データに基づいて植栽基盤の土壌特性の空間的把握ならびに生育環境評価を試みた.

2.研究手法

 調査地は宮城県名取市海岸防災林に設定した.植栽後最も年数が経過している2014年度植栽区を対象に約20 × 30 mの方形区を4箇所(No.4-1,No.4-2,No.8,No.10)設置した.各方形区において毎木調査を行うと共に,表層のpH,電気伝導度(EC),含水率,土壌硬度およびリターの厚さを72~96地点ずつ計測した.得られたデータをもとにセミバリオグラムを用いたクリギング補間法を用いて各土壌特性の空間依存性の把握ならびに空間分布図の構築を行った.さらに,毎木調査で得られたデータからクロマツの単木重量ならびに水平根到達範囲を概算し,クロマツの単木重量を目的変数,クロマツの水平根到達範囲内の各土壌特性を説明変数として重回帰分析を行うことで,調査地におけるクロマツの生育制御因子を考察した.

3.結果

 毎木調査の結果,4箇所の方形区は同一植栽年度であるにも関わらずクロマツの生育状況に大きな差がみられた.多地点土壌観測の結果,4箇所の方形区は土壌物理性・化学性ともに全く異なる様相を示した.クロマツの生育が不良であったNo.4-1,No.4-2は固結層の形成,高い含水率,低いpH,高いECを示したほか,同じ方形区内においても不均一な土壌環境を示し,各土壌特性が数メートル間隔で大きく変化した.一方で,クロマツの生育が良好なNo.8,No.10ではECや含水率が低いほか,pHは中性を示し,リターの堆積が確認された.また,各土壌特性値における空間的なバラつきも小さかった.各土壌特性間の相関分析を行った結果,含水率とECには有意な正の相関が,土壌硬度と含水率,含水率とpH,pHとECには有意な負の相関関係が認められた.各方形区を対象とした重回帰分析ではいずれの方形区も有意な重回帰式を得られたものの,調整済み決定係数が低く説明力に欠けた.一方,全サンプルデータをもとにした分析では土壌硬度,pH,ECを目的変数とする有意な重回帰式が得られたうえ,調整済み決定係数は0.42を示した.

4.考察

 調査地は異なる植栽区間および同じ植栽区内という2つのスケールにおいて土壌特性に不均一性がみられるという極めて特異な環境であることが明らかになった.クロマツの生育が不良なNo.4-1,No.4-2では固結層の形成および高い含水率が確認できたことから,土壌物理性の不良によるクロマツの根系発達阻害が生じていると考えられた.また,土壌物理性の不良は造成時の工法や造成に用いられた母材由来の粒径の違いに起因すると考えられた.なお,土壌硬度と含水率に負の相関関係がみられたこと,硬盤層が60 cm以深まで確認されなかったエリア内と高い含水率を示すエリアが概ね一致していたことから,降水等により生じた表層水は透水性の低い硬盤層では浸透せず,比較的透水性が高いエリアに集中して流入している可能性が考えられた.No.4-1の一部エリアではpHが3.5未満であるという酸性硫酸塩土壌の識別特徴の1つを満たしていたことから,土壌材料の客土に伴って母材由来の硫酸酸性が顕在化した可能性が考えられた.さらに,pHとECに負の相関関係がみられ,空間的な分布も一致していること,pHが4.2未満になるとECの値が大きく増加したことから,酸性環境下によるAl3+の溶出が発生していると考えられた.pH,ECの結果より,調査地においては従来指摘されてきた土壌物理性のみならず,土壌化学性に関しても樹木の生育環境としては不適当であることがわかった.全方形区を対象とした重回帰分析において有意な重回帰式を得られたことから,植栽基盤の土壌特性がクロマツの生育制御因子である可能性は高いと考えられた.また,得られた重回帰式より,クロマツの生育状況は土壌硬度,pH,ECで説明できることがわかった.

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