日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 617
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沖縄県国頭郡今帰仁村謝名における集合的記憶の構築
―グループインタビューの質的分析を通じて―
*楊 珺屹松井 真一
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抄録

1.「記憶の場」とその利用近年,地理学において災害に関する記憶を集め,集合的記憶を分析する手法が見られるようになった。災害における集合記憶は個人の記憶を集合することにより,地域の災害記憶を明らかにする手法ともいえる。このような個人の記憶または一定の社会集団の集合的記憶を分析する手法は災害のみならず歴史的景観や,歴史的建造物保存運動などにも利用される。大平はフランスの歴史学者ノラの「記憶の場」という概念を取り上げ,「記憶の場」という研究概念は集合的記憶の根づいている「場」,すなわち空間,動作,イメージ,事物などに注目するものであり,そこには地理学的な空間スケールの場所も包括されている。「記憶の場」に焦点を当てることで記憶が孕むシンボル性と政治性を明らかにすることが試みられ,人々の歴史意識を問う文化=社会史が目指されていると指摘する。このような研究概念は都市空間の認知においても古くから利用されており,リンチは『都市のイメージ』の中で人々が都市の成り立ちを認知する際の手がかりとなるものとして「パス(Path)」「ランドマーク(Landmark)」「エッジ(Edge)」「ノード(Node)」「ディストリクト(District)」の5つの要素を挙げ,人々がいかに地域を認知するかを提示している。2.研究の背景と研究目的 今帰仁村謝名は琉球の伝統的集落景観を残す村である。この村では今でも祭祀が継承され,また4年に一度豊年祭がおこなわれる。現在,豊年祭は豊作を祝うというより地域の祭りとしての側面が強い。ただし,豊年祭の一連の行事には祭祀も含まれており,単なる地域の祭りとは一線を画する。祭祀や豊年祭は区長または公民館を中心としておこなわれ,コミュニティが地域性を継承する契機ともなっている。この村での「記憶の場」として挙げられるのはこれら祭祀や豊年祭がおこなわれる空間である。本研究では,これらの「場」についての語りや調査から村の集合的記憶がいかに構築されるかについて検討する。フィールドワークや文献などの筆者自身からの視点だけでは,空間に関する分析は十分ではない。そこで,人文主義地理学の視点から,科学的なデータ分析方法を用いて地理的な調査・分析を行うだけでなく,現地の人々の風俗習慣を理解し,現地住民の五感や感情,集合意識,知覚を問うなど,既存の方法とは異なる方法で地理空間を捉えることを試みる。具体的にはグループインタビューを通じて,集落の集合的記憶を構築し,そこから現地の人々の空間認知の再構築を試みる。3.集合的記憶からみる謝名の村落空間構造本研究では複数回にわたってグループインタビューをおこない,祭祀空間および集落全体の「場」に対する記憶を聞き取った。これまでの集落空間構造研究は,景観復原によって明らかにされる事が多かったが,本研究では個々の語りから集合的記憶の概念を利用しつつ,テキスト分析によって空間および集合的記憶の構築を明らかにしたい。聞き取り調査で得られたテキストデータを SCAT 分析した。この方法は,一つの事例データやアンケートの自由記述欄など,比較的小さな質的データ分析にも有効である。(大谷,2010:155)本研究では,この手法を用いて,聞き取り調査対象者の表層的な会話から場所と空間に関する理論的なストーリーを導き出し,これらのストーリーを集め,集合的記憶に基づいて空間と場所の構造を再構成する。

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