日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P069
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東京圏西郊外のコミュニティに関する居住地満足度の地域差
*森岡 玄登竹川 陽揮
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抄録

1. 研究の目的 近年, 大都市圏郊外のコミュニティにおいて, 社会関係資本の重要性が増している. 他方, 公的統計を含む個票データの利用とともに,インターネット調査などの大規模な統計調査のデータ構築と分析に向けた議論が行われている.そうした議論から,全国の主要大都市などを対象とした社会調査の分析が埴淵編(2022)においてなされた.本報告では,埴淵編(2022)で取り上げられた項目の中でも「地域の満足度(人間関係)」に注目し,同様の設問を持つ私鉄沿線居住者を対象とした調査データを用いて,東京圏西郊外の居住地のコミュニティに関する満足度の地域差を示すことを目的とする. 2.「小田急沿線生活者1万人調査」の概要 本発表で使用するデータは,小田急電鉄小田急総合研究所によって2022年に行われた「小田急沿線生活者1万人調査」である.この調査は,主に小田急線を最頻利用路線とする標本をインターネット調査を通じて収集したものである.報告者らはその調査結果のうち, コミュニティに関するデータを許可を得て使用した.第1図のように,対象地域は東京圏の都心周辺部から郊外,農村地域までを含み,交通利便性や住民属性は多様で,コミュニティに関わる価値観や意識の地域差を分析するのに適していよう.3. コミュニティに関する満足度と重視度 この調査では,「居住地」および「住みたい地域」に対する設問が与えられている.なお,住みたい地域とは,必ずしも居住地とは限らない.第1に,「(居住地は)近所づきあいや地域活動が活発である」という項目に対して「満足」「やや満足」の回答率が高いのは,鎌倉市や多摩市,開成町,平塚市などである. また,これらの回答率が低いのは,箱根町や大井町,小田原市, 中井町,伊勢原市,狛江市,座間市などである.これをエリア別にみると,多摩エリアと湘南エリアが高く,その他の地域と約5%ポイントの差がある.第2に,「(居住地は)困ったときに互いに支えあう雰囲気がある」という項目に対して「満足」「やや満足」の回答率が高いのは,南足柄町や開成町,平塚市などである.これらの回答率が低いのは,大井町や松田町,座間市,大和市,川崎市多摩区などである.これをエリア別にみると,湘南エリアが最も高く,次いで多摩,世田谷エリアに加え,県西エリアでも高い.続いて,社会関係資本の重要性に関連して,「近所づきあいや地域活動が活発である」という項目について,「居住地」に対して「満足」「やや満足」と回答した人の割合(:満足度)と,「住みたい地域」に対して「重視する」「やや重視する」と回答した人の割合(:重視度)を組み合わせて示した(第2図).これをみると,多摩,湘南エリアで満足度と重視度がともに高いのに対して,代々木,世田谷,川崎エリアはいずれも低く,町田,県央,県西エリアでは重視度は高いが満足度が低いことがわかる.4. 考察 多摩,湘南エリアの居住者は,人づきあいや地域活動を重視した生活を求めている可能性がある.他方,代々木,世田谷,川崎エリアの居住者は,相対的に人づきあいや地域活動を重視しているとは言い難い.こうした傾向には,家族構成や職業といった居住者層の違いが影響していると考えられる. また,多摩,湘南エリアは人口増加率が高い地域である.特に湘南エリアは移住先として注目される地域であり,コミュニティに関する満足度やそれらの重視度が高く,コミュニティについて特徴的な意識を持つ地域であることが指摘できる.文献 埴淵知哉編 2022.『社会調査で描く日本の大都市』古今書院.

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