日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 404
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社会主義市場経済下での中国の地域構造についての考察
*阿部 康久
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抄録

社会主義市場経済とは,「社会主義国家において政府によるコントロールの下で,市場が資源配分において重要な役割を果たす経済システムである」と理解されている。改革開放(1978年)以降の中国を,何らかの形で時期区分するならば,まずは資本主義的経済活動に対する政府の関わりの変化に基づいて,何らかの区分を行う必要がある。社会主義市場経済という概念は,鄧小平の南巡講話が行われた1992年に提起された概念で,類似する国家資本主義という用語に比べて,社会主義国家による市場のコントロールをより強く維持した状態で,市場経済を導入している経済システムというニュアンスを持つ。しかしながら,このような国家が「市場経済」をコントロールするという政策については,その実行可能性や課題について,より地域的・空間的な視点から検討していく必要がある。すなわち「市場経済」とは,それが部分的にでも導入されると,都市やその他の地域において,強大な政治権力を持つ社会主義国家ですらコントロールが難しいほどの大量な金融資本の蓄積や投下がなされることになる(ハーヴェイ,2019)。その結果として,特に1998年の住宅制度改革以降,四大都市(北京・上海・深圳・広州)やそれに次ぐ特大都市(城区人口500万人を超える都市)レベルの都市においては投機的資金の大量投下による不動産価格の高騰という現象が顕著になった(表1)。報告者が2005年頃から,中国各地で行ってきた人々の労働移動に関するいくつかの調査結果を考慮する限り,中国の地域構造を,一般的に理解されているような「都市と農村」という二分法で見ることは難しいと考えている。実態としては,上記の四大都市のような「大都市」は,農村部出身の出稼ぎ労働者や中小規模都市出身の大卒ホワイトカラー層が一時的に就業・居住を希望する地域である一方で,このような人々がマイホームを購入して定住することが可能とは考えづらい地域になっている。そのため,むしろ「都市」を投機的資金の流入により一般的な所得水準の外来人口(あるいは現地の戸籍を持つ住民ですら)では手が届かないレベルまで不動産価格が高騰し,定住の場というよりは「あこがれ」の対象となっている「大都市」と,人々の「生活世界」の中心である住宅の取得が可能なレベ ルにある「中小規模都市」に区分することで,「農村」地域を加えた三層構造的な地域構造が存在していることを論じていきたい。具体的には,他地域出身者の大都市からの出身地に近い中小規模都市への再移住や,これらの地域から元々移動しない人々の存在への注目,さらには中小規模都市における居住者の住宅購入と定住という現象に着目することで,社会主義市場経済下での中国の地域構造を検討していく。

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