主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2024/03/19 - 2024/03/21
1. はじめに
我が国に広く分布する黒ボク土,特にアロフェン質黒ボク土は陰イオン交換能(AEC)のpH依存性が知られている(前田ら 2008).AECは硝酸イオンや硫酸イオンの吸着や移動を規定する因子であり,環境への流出を考える上で重要である.都市域の造成緑地に植栽基盤として持ち込まれた土壌材料は,大気から供給される粉塵が酸を中和するためpHが上昇する可能性がある(高橋ほか 2001).アロフェン質黒ボク土はpHの上昇に伴いAECが低下するため,アロフェン質黒ボク土で造成された埋立造成緑地では陰イオンの垂直分布を把握することが求められる.また,都市域における土壌特性の空間分布は不均質であることが指摘されており(Greinert 2015),土壌特性の水平分布を示すことが重要である.したがって本研究では,黒ボク土により造成された埋立造成緑地の交換性陰イオンの水平・垂直分布を明らかにすることを目的とする.
試料および方法
調査地は東京都江東区にある海の森公園である.海の森公園は東京都の廃棄物最終処分場であったが,現在は植栽が行われた公園としての整備が進められている.植栽基盤の造成が行われており,黒ボク土が持ち込まれた.海の森公園では2008年(UMI08)と2014年(UMI14)に植栽が行われた区画で試料採取を行った. UMI08では2022年12月に表層0-30 cmと下層40-60 cmの試料を採取した(27試料). 2023年6月の調査ではUMI14で,2015年の調査以降,有機物蓄積により層位分化が生じた0-5 cm(表層上部:10YR2/2)と,有機物蓄積が視認できない5-30 cm(表層下部:10YR4/4)の土壌試料を採取した(各39試料).併せてUMI08でも有機物蓄積が認められる0-5 cmの土壌試料を採取した(39試料).分析項目はpH(H₂O),電気伝導度(EC)および交換性陰イオン(Cl-, F-, NO2-, NO3-, PO4-, SO4-)である.陰イオンの抽出には純水を用い,固液比1:10で2時間振とうした.振とうした試料液は,0.20 µmのシリンジフィルターでろ過し,イオンクロマトグラフにより定量した.相関係数はSpearmanの順位相関係数により算出した.土壌理化学性の空間分布を示すため,測定値はスプライン補間を行った(SAGAGIS,Multilevel B-Spline).空間的自己相関の指標としてGlobal Moran’s I統計量を算出した(ArcGIS Pro 3.0.3).ただし,データが正規分布に従わない分析項目は(Shapiro-Wilk検定:p <0.05),Box-Cox変換を行ったデータに基づきGlobal Moran’s I統計量を算出した.空間依存性の解析には,セミバリオグラムを用いた.
結果と考察
pHの平均値はUMI08で表層上部7.33,表層下部7.14,UMI14は表層上部6.98,表層下部7.06の値を示した.EC(µS/cm)はUMI08で表層上部203,表層下部220,UMI14は表層上部186.1,表層下部94.9の値を示した.UMI08表層上部,UMI14表層上部,UMI14表層下部において,リン酸イオン(mg/kg)は18.7,31.2,11.1,硝酸イオン(mg/kg)は336,387,24の値を示した.pHは一般的な日本の森林土壌と比較して高い値を示した.表層上部における硝酸イオン含量は,群馬県の森林土壌を対象とした長谷川・小葉竹(2006)の表層0-5 cmの約110 mg/kg(最大値)と比べて高い.佐藤・瀬戸(1995)は,天然林土壌における硝酸イオン含量を遠心法で測定し,表層0-5 cmの7.66 mg/kgを最高に下層に向かって漸減することを示した.抽出方法が異なるため単純に比較することは難しいものの,表層よりも下層の硝酸イオン含量が低くなることは本研究の結果と整合する.植栽から10年以上経過した埋立造成緑地は,一般的な森林土壌と同様に表層で硝酸イオン含量が表層に著しく偏ることが示された.
UMI08およびUMI14の表層上部では,複数の分析項目で有意な正のGlobal Moran’s I統計量が認められた(p < 0.05).一方,UMI14表層下部は全ての測定項目に関して,Global Moran’s I統計量の値に有意性が認められなかった.UMI14表層下部においてGlobal Moran’s Iの値に有意性が認められないことは,本調査地が埋立造成緑地であり,持ち込まれた土壌材料の空間連続性が乏しいことが要因の1つとして考えられる.