日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P019
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変動地形から推定される曽根丘陵断層帯の右横ずれ変位
*山中 蛍後藤 秀昭細矢 卓志寺田 龍矢中瀬 千遥後藤 慧中西 利典牧田 智大
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抄録

甲府盆地南縁の曽根丘陵断層帯は,東北東-西南西方向に分布し,変動地形の特徴などから南傾斜の逆断層と考えられている。これをもとにすれば,この付近は日本列島で広く確認されている東西方向から西北西-東南東方向の最大水平圧縮応力軸とは異なり,南北方向に圧縮されてきたことになる。しかし,近年の微小地震の発震機構解の解析からは,曽根丘陵断層帯周辺の最大主応力軸方位が断層の一般走向に斜交することが指摘され,同断層帯が右横ずれを含む可能性が示唆される。伊豆衝突帯と呼ばれる伊豆半島周辺地域では,本州弧に対する伊豆弧の衝突を反映して南北方向の圧縮が広く生じると考えられてきたが,曽根丘陵断層帯の変位様式に右横ずれ変位が含まれる場合には,伊豆衝突帯の北部における南北方向の圧縮応力の減衰を示す可能性がある。従って,曽根丘陵断層帯の変動地形は,島弧衝突帯の構造発達や地震発生様式を理解する上で重要な研究対象でと言える。本研究では,曽根丘陵断層帯の変動地形について,航空レーザ測量データをもとに再検討した結果,複数の地点で右横ずれ変位が確認できた。これらの断層地形とともに,地質調査の結果を報告した。 本研究の対象地域である曽根丘陵断層帯周辺では,市街地や果樹園が多いことから,空中写真の判読では詳細な地形を観察することは容易でない。本研究では,国土地理院より航空レーザ測量データの提供を受け,これをGISを用いて1m間隔の標高メッシュデータ(DEM)に加工した。DEMをもとにステレオ画像を作成し,空中写真と併用しながら立体視判読することで,段丘面と変位地形のマッピングを行った。また,DEMをもとに変位量を計測した。現地においては,変位地形を確認し,UAVレーザ測量による地形計測,露頭調査,およびボーリング調査を行うことで,地形や地層の変位量を検討した。変位基準となる地形が人工改変を受けた区域では,空中写真と現地でのGNSS測位結果をもとに写真測量を行った。 地形調査の結果,曽根丘陵断層帯の中央部付近ではこれまで指摘されている断層トレースと大きな違いはないが,東部の一宮〜勝沼付近では,山麓線の1〜2km北に,扇状地性の段丘面を変位させる東北東-西南西走向の低断層崖が新たに認められた。これに基づき,約5kmの直線的な活断層トレースが認定された。トレースが京戸川扇状地を横断する区間では,扇状地の西半で盆地側が,東半で山地側が相対的に低下し,上下変位の向きが入れ変わる。UAVレーザ測量で得られた25cm間隔のDEMの解析などから,トレースを横切る開析谷には10〜30mの系統的な右屈曲が認められ,右横ずれ変位が卓越すると考えられる。逆向き低断層崖を横切る開析谷で実施した群列ボーリングの結果,礫層の上面に上流側が低下する不連続が確認された。 一方,曽根丘陵断層帯西部の市川大門〜三珠付近では,芦川の扇状地を起源とする段丘面が多段化して発達し,これらを変位・変形させる東北東-西南西走向の二条の活断層トレースが,山麓線沿いと,そこから200〜500m盆地側に知られてきた。本研究による地形判読の結果,山麓線沿いのトレースに沿って,段丘崖および開析谷の15〜20mの右屈曲が系統的に認められた。上野地区では,人工改変で消失した段丘崖を1940年代米軍撮影の縮尺1/1.5万の空中写真を用いた写真測量により数値表層モデル(DSM)として復元し,16mの右屈曲量を計測した。山麓線沿いのトレースでは,右横ずれ変位が卓越すると考えられる。 上述のとおり,曽根丘陵断層帯の東部と西部では,右横ずれ変位を示す地形的証拠が得られた。他方,先行研究が対象としてきた断層帯中央部では,重力異常に基づき低角な断層面が推定され,地形面の短縮変形が上盤に集中することから,水平短縮が卓越するとされてきた。しかし,近年,断層帯中央部で行われたトレンチ調査では,右横ずれを示唆する断層形態が報告されている。これらの結果と本研究を結果を合わせると,曽根丘陵断層帯は複雑な変位様式を持つと予想されるが,大局的には水平短縮,上下変位,右横ずれの3成分を持つ右斜めずれ断層の可能性が高い。 曽根丘陵断層帯が右斜めずれ断層とした場合,一般走向はN60°Eであることから,東西方向から西北西-東南東方向に最大主応力軸を持つ圧縮応力場によって駆動されてきた可能性が推定される。従来,同断層帯は南北方向の圧縮応力下にあると考えられてきたが,第四紀後期には南北圧縮の影響が減衰し,日本列島で広く認められる東西方向に近い応力下に移行している可能性が示唆される。

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