1.小中高における地誌的学習
寺本(2009,p.10)は,地誌とは「ある空間的範囲において,自然的,人文・社会的条件によって事象が生起した結果生じる場所の個性」としている。この場所の個性が,地理教育における地誌的学習で捉えることが求められる地域的特色である。
2017・2018年の現行学習指導要領では,小学校第3学年の身近な地域や市町村の様子,第4学年の都道府県の様子や県内の特色ある地域の様子,第5学年の我が国の国土の様子と国民生活,我が国の国土の自然環境と国民生活との関連,第6学年の我が国とつながりが深い国の人々の生活が地誌的学習に近い。
中学校社会科地理的分野の大項目の世界の様々な地域や日本の様々な地域は,設定地域の地域的特色を明らかにする地誌的学習である。高等学校の必履修科目である地理総合では地誌的学習は明確に位置づけられていないが,選択科目である地理探究では,大項目の現代世界の地誌的考察が設定されている。
2.地誌的学習の系統性の確保
地理総合の大項目「国際理解と国際協力」は,現代世界の諸課題である異文化理解と地球的課題を内容とする。学習指導要領解説では,中項目「生活文化の多様性と国際理解」について,中学校社会科地理的分野と地理探究における地誌的学習の繰り返しにならないように厳に留意する必要があるとしている。しかし,小中高の地誌的学習の系統性を確保する観点から,地理総合において地域的特色を捉え,課題を探究するような地誌的学習の要素を取り入れることが考えられる(永田,2021)。
中項目「地球的課題と国際協力」では,地球的課題の現状や要因,解決の方向性を考察するまでにとどまっている。2つの中項目では,持続可能性の視点から地理的な見方・考え方を働かせて,取り上げる課題について考察・構想をしていきたい。
3.現代世界の諸課題に着目したESDとしての地誌学習
UNESCO(2004)は,DESDの国際実施計画フレームワークとして,ESDの3領域と15重点分野を示した。「文化の多様性と異文化理解」は,ESD独自の内容であり,地理教育で重視されている。ESDは,SDGsのほとんどの行動目標とかかわっている。対応している課題について,SDGsをESDの行動の変革を促すゴールとして位置づければ,地理ESD授業を構想しやすくなる。また,小・中・高で,考察する際の観点や分析手法などの到達点の設定を高めるなど,既習事項をもとに高次の展開に発展させることが肝要である(永田ほか,2023)。
現代世界の諸課題に着目したESDとしての地誌学習では,世界地誌に着目し,設定した地域の地域的特色を捉えるとともにその地域で見られる文化摩擦問題や地球的課題の解決に向けて考察・構想することで学習者の行動の変革を促したい。
小学校では,我が国とつながりが深い国の人々の生活で,異文化理解について考察し,中学校では,世界の様々な地域で地域的特色を捉えた上で,異文化理解や地球的課題を考察する。高等学校では,地理総合の国際理解と国際協力で文化摩擦問題や地球的課題の解決に向けて考察・構想し,地理探究の現代世界の地誌的考察で地域的特色を捉えた上で,文化摩擦問題や地球的課題の解決に向けて考察・構想することが考えられる。
文献
寺本潔 2009.新要領「内容知“地誌”」の出番を検証する-大観・主題と中核・地理的見方や考え方がキーワード-.社会科教育 46-11:10-13.
永田成文 2021.生活文化の多様性からみた東南アジア・オセアニアの地理授業.新地理 69-1:78-85.
永田成文・阪上弘彬・今野良祐・齋藤亮次 2023.SDGsを活用した地 理教育におけるESD授業-小中高一貫地理教育カリキュラムのアイデア-.地理 68-10:90-95.
UNESCO 2004. United Nations Decade of Education for SustainableDevelopment(2005-2014): Draft International Implementation Scheme.