日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 703
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インドネシア・ロンボク島におけるASGMの特徴(第2報)
*林 武司髙樋 さち子
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抄録

インドネシアは,金については世界第8位(2022年)の産出量を誇るが,生産される金の一部はASGMによるものである.ASGMでは,原石中から金を回収する手段として水銀が広く用いられてきた.インドネシアにおいても水銀の使用は規制されてきたが,2017年の「Minamata Convention on Mercury」の発効以降も使用され続けている.また,インドネシアではASGMにおいて,水銀の他にシアン化物やホウ砂も用いられている.本研究プロジェクト(科研費番号19H04334)では,インドネシア中部のスンバワ島ならびにロンボク島において,ASGMの実態や,従事者や周辺環境への影響等について調査を行ってきた(髙樋ほか,2022;2023).本発表では,前報(林ほか,2023)に引き続きロンボク島におけるASGMの環境影響について報告する.2023年6月,7月に,ロンボク島南西部においてASGM従事者への聞き取り調査を行うとともに,水銀またはシアン化物による環境影響評価のために①ASGMサイト内の尾鉱および地下水(生活用水,ASGMに使用),②ASGMサイトの近傍を流れる河川の水,③ASGMサイトが隣接する砂浜の砂および貝,を採取し,これらの含有量を調査した.金の回収に水銀とシアン化物を併用するASGMサイトの分布域を流下する河川の5地点から水試料を採取してシアン化物含有量を調査した結果,最も上流側の調査地点において,検出下限値(0.0004mg/L)のシアン化物が検出された.この結果は,河川中に排出されたシアン化物が速やかに希釈されることを示唆するが,調査を実施した6月が乾季(4月~10月)の前半にあたることから,河川流量が最も減少する乾季後半の状況について,さらなる調査が必要である.ASGMサイトに隣接する砂浜では,砂試料中の水銀含有量は検出限界以下であったが,貝試料からは約0.2~1.0mg/kg(n=6)の水銀が検出された.このASGMサイトでは,尾鉱や排水だけでなく生活用水(地下水)からも水銀が検出されていることをふまえると,本調査の結果は,排水の直接的な排出や地下水流動に伴う地下の移行によって砂浜にもたらされた水銀が,生体濃縮によって貝の体内に蓄積されていることを示唆する.この砂浜のある湾では漁業や観光業が営まれていることから,湾内の生態系や地域の人々の健康への水銀汚染の影響に関する広域的な調査を行う必要があると考えられた.

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