主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2024/03/19 - 2024/03/21
1.はじめに
理想のライフスタイルを追い求め、経済的要因以外の理由で自発的に行う移住を「ライフスタイル移住」という。近年では日本国内間の移住における研究も蓄積されてきている。一方、移住後にまた、元の居住地へ戻る、ライフスタイル移住からの帰還に関する研究は管見の限りない。この点ついてWalsh(2022)はライフスタイル移住者の帰還に関する議論から、帰還現象はいままで見過ごされてきたと指摘している。そこで本研究ではライフスタイル移住者の帰還動機に焦点をあてるとともに、帰還者へアンケート調査を行い、その回答から動機を軸とした「ライフスタイル移住帰還者像」を明らかにすることを目的とした。
2.調査分析方法
調査はライフスタイル移住を行い、現在は元の居住地へ帰還した人を対象とした。なお、元の居住地は出身地とし、出身地から沖縄へライフスタイル移住を行い、その後、再び出身地へ帰還した人に限定した。インターネット調査会社のパネル4万人にスクリーニング調査を行ったところ、条件をクリアした対象者40名が抽出されたため、アンケートを行った。得られた回答について統計解析ソフトSPSS27.0においてクラスター分析(Ward法、ユーグリッド平方距離)を行ったところ、類似する動機を持つ5つのクラスターに分類された。なお、その内1つについては、サンプルも少なく際立った特徴がみられなかったため、残り4つのクラスターを分析対象として、ライフスタイル移住帰還者像について考察を行った。
3.分析結果
帰還動機から4つのクラスターの特徴は以下の通りである。第1クラスターは居住年1年前後、プッシュ動機の全ての項目において最高点、かつプル動機全ての項目において最高点、阻害要因は「帰還後の収入が下がる」こととしている。よって1を「移住不満型」とした。クラスター2は居住年3年前後で、プッシュ動機として「住環境が良くない」、「家庭環境の変化」、プル動機が「地元には友人知人が多い」、「親元で暮らしたい」であった。よって2を「地元人間関係継続型」とした。クラスター3は居住年数が3から5年で、プッシュ動機は「家庭環境に変化があった」という得点が突出して高い。一方、プル動機のほとんどの項目で最低点である。よって3を「生活環境変化型」とした。最後にクラスター4であるが、居住年数は最も長い5から10年であり、プッシュ動機は、「賃金が低い」の得点が高いものの、「人間関係に気苦労が多い」、「沖縄に親しい人がいない」といった人間関係に関わるプッシュ動機の得点が最も低いことから、人間関係にはほとんど苦労していないことが伺える。一方、プル動機については、「親の介護」、「親の面倒を見る」という得点が突出して高く、逆に「地元の方が生きがいを感じられる」の得点は低い。よって4を「親の介護型」とした。
4.考察とまとめ
動機データのみで分類したが、居住年数もきれいに区分けされる結果となったから、帰還動機と居住年数には関係性がある可能性が示唆された。すなわち、移住1年目は「移住不満型」、3年前後で「地元人間関係継続型」(いずれも内部規定的要因)、3~5年で「生活環境変化型」そして10年で「親の介護型」(いずれも外部拘束的要因)と、変遷していくことが推察される。一方、Uターンの阻害要因として職や収入低下、妻や子供の人間関係や教育関係の変化である点が指摘されているが(江崎・荒井・川口, 1999)、本調査においては、「収入が下がる」、「出世にこだわりがある」の2つしか抽出されず、さらに居住年数が最も短い1年前後の帰還者にのみ確認された。
本研究では、主に30代から50代の中年層がライフスタイル移住からの帰還を行う動機について4つに類型できたことから、帰還移住者像を4つ示すことができ、かつ短期居住者以外は帰還の阻害要因がほとんどないことを明らかにした。今後は地理的な特性によって帰還動機が異なるのかを検討していくこととする。
本研究は、公益財団法人松下幸之助記念志財団の研究助成を受けたものである。