日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 415
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桜島大噴火への自主防災組織の備え
鹿児島市中心部の八幡校区からの避難に注目して
*岩船 昌起
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抄録

【はじめに】本発表では,住民の「自助」「共助」で中心的な役割が期待されている自主防災組織に注目し,鹿児島市の市街地中心部の八幡校区における桜島大噴火時の広域避難への備えについて考察する。

【桜島大噴火で市街地降灰時の避難計画】鹿児島市は,「地域防災計画 火山災害対策大量軽石火山灰対応計画」を平成31年作成,令和3年一部改訂した。鹿児島市街地への降灰は,7・8月の可能性が高く,最大100cm以上の堆積が見込まれる。気象庁噴火警戒レベル5発表時に,鹿児島市は,降灰の恐れがある5ゾーンに,風向きに応じて「高齢者等避難」「避難指示」を発令し,該当ゾーン住民の迅速な「立退き避難」を噴火直前までに完了させるという。避難先は,薩摩半島等自治体であり,国道等の活用での車避難等を想定している。

この計画には,課題が多々ある。㋐そもそも被災が想定されるゾーンの全住民が「立退き避難」すべきなのか。重篤な患者を擁する鹿児島大学病院では,屋内安全確保での対応を模索しており,避難主体の住民の健康状態,移動手段,家族構成等の多様性への配慮が不足している。

 ㋑「立退き避難」時に車両で「立ち往生」せずに,避難先に到着できるのか。「立退き避難」での経路が,災害想定時の風向きとほぼ平行であることから,数mm~数cm 程度の降灰の影響で車両が動かなくなり,多数の車両が立ち往生する可能性がある。停車した車両内に閉じ込められた場合,自宅での屋内安全確保より過酷な生活環境が予想され,「エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)」の発症等で,生命の危機に直面する可能性がある。

 ㋒「立退き避難先」での避難所等,万人単位の避難者が避難生活を送ることができる宿泊所を「分散避難」でしっかりと確保できるのか。避難先の枕崎市の全避難所の定員は,最大受入9,800 人であるが,鹿児島市「大量軽石火山灰対応計画」での枕崎市他3 市での受け入れ人数が69,000~79,000 人であり,2万人弱を受け入れる枕崎市では,一般避難所以外の宿泊所等を1万人強確保する必要がある。

【八幡校区での備え】八幡校区は,最も近い場所で,桜島南岳火口から約8.4kmに位置する。市中心地域の一部であり,中・高層建築物の分譲・賃貸共同住宅が多く。八幡校区コミュニティ協議会は,31町内会(3,001世帯4,881人登録[校区人口28%],2024年10 月1 日時点)を中心に,130団体が参画している。

八幡校区コミュニティ協議会の活動について,「自主防災組織の手引(総務省消防庁2023a)」の4つの観点から検討する。

①火山災害に関する知識の普及(噴火警戒レベルと避難行動の対応など)②火山防災マップの周知について,平時の活動である。八幡校区31 町内会で回覧板等が配布される人数が約4,881 人であり,八幡校区総人口17,222 人の約28% に当たる。ただし,このような配布物を積極的に読む方は,一般的なアンケート回収率20~30%に仮に基づけば,1,000~1,500 人程度が算定され,八幡校区総人口の10% にも満たない。

③迅速な情報伝達,避難誘導(避難行動要支援者の避難誘導を含む)に関しては,桜島WS 報告会参加者が約130 人であること(八幡校区・京都大学2024),「実際の噴火時には,31 町内会のリーダー,民生委員,消防団等と共に,概ね200 人程度なら,避難誘導に当たることができる」との会長の証言が参考になる。ただし,八幡校区コミュニティ協議会等では,避難訓練を行っているが,住民誘導の方法や手順等が具体的に決められて地区防災計画等に明記されている訳ではない等から,個人の避難開始の遅れにつながる業務を推奨し難い状況にある。

④避難所の開設・運営等については,大規模噴火時の広域避難では避難先の自治体の避難所で過ごすことから,八幡校区コミュニティ協議会関係者ができることは,公的にはない。前述の通り,避難先の自治体での避難所定員が避難者の居住空間に個人占有区画と通路をレイアウトして決めているものでないようで,また,どの避難所に行けばよいかも決められていないことから,何とか避難先にたどり着いても,大混乱が発生する可能性が高い。

【おわりに】鹿児島市で最も先進的な八幡校区コミュニティ協議会に注目して分析を進めたが,桜島大噴火時の広域避難は,そもそも1地区1自治体を越えての避難行動であり,1つの校区コミュニティ協議会のみの努力で解決できるものではないことが明らかとなった。行政による避難計画類の作成・改善が重ねられるべき現状であり,早急な実行が求められている。

《文献》岩船昌起(2025)自主防災組織と火山防災-鹿児島市における桜島大噴火への備え.『都市問題』2025年8月号,印刷中.

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