日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P026
会議情報

日本最古で最初の名水「真名井」の研究
*河野 忠阿部 みう
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに日本最古で最初の名水として「記紀」に御井,真名井が登場する。御井とは井戸や泉の美称のことであり御井は主に天皇の産湯水や神聖な水のことを表している。それに対して,真名井とは湧水に対する最大限の敬称のことで,古代からその水源が絶えることなく,かつ清浄な状態であることを指している。なかでも天真名井(アメノマナイ)は最大級の敬称とされている。以上のように御井と真名井は記紀の時代から知られているが,特徴や水質について研究した例はみられない。そこで,本研究は御井,真名井の分布の特徴,水質について明らかにすることを目的とする。2.研究方法様々な資料から御井,真名井を抽出し,分布図を作成した。また,水質を明らかにするために現地でサンプリングした水を実験室にて主要溶存成分,また,全リン,全窒素,CODの分析も行った。3.結果と考察日本全国に天真名井16ヶ所,真名井38ヶ所,御井が21ヶ所存在しており,近畿地方を中心に西日本に多く存在していることが判った(図1)。しかし,全ての場所に水が存在しているわけではなく,これらの中から天真名井4ヶ所,真名井14ヶ所,御井1ヶ所(井戸があっても採水不可が多かった)を採水することが出来た。天真名井や真名井が西日本に多く分布しているのは,日本書紀で天真名井についての記述に登場するアマテラスを祀っている伊勢神宮内宮や年に1度全国の神が集まるとされる出雲大社が西日本にあるからではないかと考えられる。また,御井が九州と近畿地方に集中しているのは,神武天皇や応神天皇が九州で生まれたとされており,九州から大和地方に移住したためであると考えられる。中世以降の天皇の出生地は御所やその周辺が多いと考えられるので,御井は少ないと考えられる。次に主要溶存成分分析結果からは,天真名井は主にNa-HCO₃型をとる深層地下水が多く,真名井は,Na-HCO₃型のほかにCa-HCO₃型も多く見られた。ヘキサダイアグラムから,天真名井と真名井ともにミネラルバランスが良く,比較的高濃度のものが天真名井であることが判った。全リン,全窒素,CODは測定限界値以下であったことから汚染がなく良質な水であることが推察できる。そこで,おいしい水指標であるOIと硬度について計算し,それらを市販されているミネラルウォーターの分析結果と合わせ散布図を作成した. OIは2以上,硬度は10~100mg/Lが美味しい水の基準とされている。OI = (Ca2++K++SiO2)/(Mg2++SO42-),単位はmg/l 真名井は全体的にイオンバランスが良く硬度が高いことから,記紀の伝説の通り良質な水であることが判明した。特に天真名井はより硬度が高いものが選ばれているので,酒造に適している水(硬度が高いと酵母の働きが活発になり良質な日本酒ができる)と考えられ,記紀の時代の酒造法は国家機密であったことから,今後御神酒との関係を明らかにする予定である。

著者関連情報
© 2025 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top