日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 616
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小規模離島の地域振興活動を支える社会経済的基盤
長崎県佐世保市高島を事例に
*前田 竜孝車 相龍
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抄録

Ⅰ はじめに  小規模な離島では,地域資源を生かした振興がこれまで行われてきた.地理学でも,農水産物を利用した特産品の開発や観光振興などが報告されている(平岡編2009など).他方,小規模な離島では,一部を除き人口減少と高齢化が急速に進行している.経済的な基盤と社会的な基盤が弱まるなか,どのようにして振興活動が図られているのだろうか. 本報告では,小規模離島の地域振興活動を支える経済的・社会的な基盤を検討する.特に,小田切(2009)などで示された地域づくりのフレームワークに基づいて,住民による地域の振興活動に関わる,①組織づくり,②産業の形成と政策的支援,③地域づくりの主体形成に焦点を当てる. 事例として,長崎県佐世保市の高島で活動する,高島活性化コンベンション協会(以下,ESPO)を取り上げる.高島は,最寄りの港からフェリーで約20分の場所にあり,1日3便程度のフェリーが就航している.人口は162人(2020年国勢調査)で,主な経済活動は漁業である. Ⅱ ESPOの発足の経緯と活動内容  ESPOは,高島出身で,岐阜で測量会社を営んでいたA氏が,故郷への思いから,高島での海産物の加工・通信販売を始めたことに端を発する. その後,A氏の死去に伴い,この事業は,同じく測量会社で働く息子のB氏に受け継がれた.B氏は,2010年頃から岐阜県から高島へ通うようになり,2015年には,B氏の経営する会社が,島内に水産加工場を建設した.このとき,B氏は,次はソフト面の構築が課題であることを自治会長らに相談したという.この問題意識を受けて,B氏を中心に組織づくりが始まり,2023年5月にはESPOの設立総会が開かれた.現在,ESPOは,産業活性,観光創造,ライフライン・インフラ推進,教育,環境の5つを柱として事業展開している.事業のなかでは,インターネット環境の改善や交通難民対策など地域課題の解決に向けた活動も行っている. Ⅲ ESPOの活動を支える社会経済的基盤  ESPOの組織づくりにおいては,島内の女性たちの主な就業先である水産加工場が,関係性づくりの場として機能した.漁業者の妻たちが水産加工場で働き,B氏とのあいだで交友関係が生じた.その結果,B氏と島内の漁業者との間でも続いて関係性が形成されたのであった. 政策的支援においては,ESPOの収入の大半が,各種補助金で構成されていることが判明した.背景には,補助金の獲得に向けた,書類作成や行政との協議などのB氏の活躍があった.B氏による積極的な行動によって,周囲の漁業者も安心して活動に参加しやすくなり,これが地域振興活動の主体形成につながった. 文献小田切徳美 2009. 『農山村再生―「限界集落」問題を超えて―』岩波書店平岡昭利編 2009. 『離島に吹くあたらしい風』海青社

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