日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P016
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衛星リモートセンシングと機械学習による中国・洞庭湖の土地被覆変化の解析
*喩 婕田中 靖
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抄録

中国・湖南省の北東部にある洞庭(トンチン)湖は長江の中流部に位置する。この地域の降水には季節性があるため,湖の水位は季節によって大きく変動し,乾季には多くの場所が陸地化する。また,ダム建設や干拓など人為的な影響により最近100年の間に水域面積は以前の半分以下となり,様々な環境問題が起こった。このように洞庭湖周辺の土地利用の変化は様々な自然・社会的要因を反映したものであり,その変化をモニタリングすることは重要である。 

 近年,これまでに取得された大量の衛星データが無償で取得できるようになり,さらに機械学習(ML)や人工知能(AI)の発達もあいまって,より高度な画像解析を行えるようになってきた。このような背景から,洞庭湖周辺においても衛星画像を用いて土地利用を解析する研究が増えてきている。しかしこれらの研究では,水位の変化に伴い陸地化する地域の土地利用の変化にはあまり注目していない。そこで本研究では,洞庭湖全域を対象として,特に水位の変化に伴って陸地化する(した)地域の土地被覆状況の変化を明らかにすることを目的とする。

 本研究では,前処理済み衛星データおよびDEMに対して機械学習法であるSVMとRandom Forestを用いた画像解析を行った。その結果,分類の学習データにDEMを加え,Random Forest法を利用することでもっとも精度が高い結果が得られ,それを用いて土地被覆変化を検討した。

 洞庭湖は全体的に陸地化が進んでおり,主に湿地と農地に変化したことを確認できた。農地が拡大した一方で,その一部は市街地に変化していた。湖の南東部と南部においては,水域や畑地から市街地に変化した様子や,中洲が大規模に湿地化しているのが目立つ。市街地の多くは農地から変化した地域であるが,それ以外に水域と湿地の縁辺部に発電設備が分布している。そのほか,洞庭湖の周辺にある現在の堤防の外側の地域においては,小規模な水域の増加が見える。この水域は農地の間に整備された魚の養殖池であった。

 洞庭湖における水域減少の主な要因は湿地と農地の拡張である。湖水面の面積は様々な要因により縮小傾向であったため,土砂堆積の空間が制限され,湿地の大規模拡大に繋がっていると考えられる。拡張した農地は,主に1979年までに行われた干拓によるものである。干拓地の標高は,雨季の湖水面よりも低く,堤防決壊時には大規模な洪水の危険性が高い。

 一方,小規模な水域の増加は,多くの養殖池が作られたことによる変化である。この地域にみられるこのような土地利用の大きな変化の背景には,1978年12月に始まった生産と分配方式の改革により,従来の絶対的な平均分配から,労働の質と量に基づいて報酬を計算する方式へと移行した影響がある。

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