日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 636
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オーストラリアにおけるブータン人サッカーリーグの展開
*菊川 翔太
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抄録

Ⅰ.研究の目的 本研究の目的は、オーストラリアにおけるブータン人サッカーリーグの展開に着目することで、移民(留学生、難民含む)にとってのスポーツの役割を再検討することである。また第二に、近年急拡大している在豪ブータン人コミュニティの特徴についてサッカーを通して描き出すことである。 Ⅱ.研究の背景 ブータン・オリンピック委員会には現在、アーチェリーやバトミントン、柔道、水泳など20の団体が加盟している。国技のアーチェリーは、1984年のロサンゼルス五輪以降すべての夏季五輪でオリンピック選手を輩出しており、ブータン人の五輪選手合計34名のうち8割を占める。アーチェリーに加え、ブータン国内でプロ・アマチュア問わず圧倒的な人気を誇るのがサッカーである。サッカーは、在外ブータン人にとっても人気のスポーツである。ブータンでは、ブータン南部に居住していたネパール系ブータン人の第三国定住(2008年~)、2000年代からアメリカ合衆国への出稼ぎ、2010年代から中東湾岸諸国や日本、2022年以降はオーストラリア、カナダ、イギリスといった英語圏への出稼ぎ、留学、移住が急増している。本発表では、オーストラリアにおけるブータン人サッカーリーグの展開を、ブータン人サッカーリーグやチームFacebookの公式ページ及び、2024年2月、2025年2月に実施した現地調査の結果をもとに考察する。 Ⅲ.ブータンサッカーの展開 イギリス発祥であるサッカーが、ブータンでいつ頃どのように開始されたのか明確な記録は残っていない。その中で、1922年にインド人測量隊の一行がブータンを訪問した際にサッカーの試合を実施したという報告(Tashi 2013)や、1950年代以降、近代教育普及時にヨーロッパやインドからの外国人教師によりブータンにサッカーが伝えらえたとする文献(Mckay 2005)が見られる。1983年にブータンサッカー協会が設立され、1993年にアジア・サッカー連盟、2000年に国際サッカー連盟した。国内でも2012年に男子、2016年に女子のナショナルリーグが開幕している。ブータンの男子代表のFIFAランキングは、2015年に最下位から159位まで上昇したが、2025年1月現在は182位である。 Ⅳ. オーストラリアのブータン人サッカーリーグの展開 ブータンからオーストラリアへの移動は、主に2022年以降急増している「働く留学生(International Student-worker)」を中心とする留学生移動と、2008年以降生じたネパール系ブータン人の第三国定住を通しての難民移動の2つに分けられる。2022年以降の留学生移動を通してブータン人が顕著に増加している西オーストラリア州パースでは、ブータン人サッカーリーグも大きく展開している。パースでは、少なくとも2009年からブータン人の国費留学生が平日は大学に通い、週末はサッカーをしてブータン人同士の交流を図っていた。その後、2019年には15チーム、2024年には33チームと倍増している。ブータンの元サッカー代表選手も運営に関わり、留学エージェント会社やブータン料理店などエスニック・ビジネスの運営者がチームのスポンサーとなっている。一方、2008年以降オーストラリアに第三国定住したネパール系ブータン難民のチームは、2012年からリーグを開催し、2024年で11回目を実施している。ネパール系移民や他地域からの難民との交流試合も開催している。オーストラリアのブータン人の留学生中心のリーグとネパール系難民中心のリーグでは両者とも州間のサッカーリーグを実施している。これまでの調査では、両者は各州においてもそれぞれのリーグに参加をしているが、 両者が対戦・交流している事例は読み取れなかった。 Ⅴ. 調査結果、考察 従来の移民(留学生や難民を含む)に関する研究では、彼らが生活者としていかに娯楽やスポーツなどを実践しているのかがあまり着目されていなかった。本研究では、決して国際的にレベルが高くはないブータンサッカーが、アマチュアレベルでも在外ブータン人の情報交換や交流の機会、そしてビジネスの「場」として重要な役割を担っていることが分かった。2025年2月に実施した現地調査の結果、本研究の課題、引用文献は発表時に述べる。

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