1.はじめに 近年,日本の物流と公共交通をめぐっては,ドライバー不足をはじめ様々な課題がみられる.本研究は,それらの課題解決の一手段として登場した「貨客混載」に着目し,特に,路線バスを利用した貨客混載の現状について分析した.貨客混載は,「同一の車両・ドライバー・運行管理者等で旅客(ヒト)と貨物(モノ)の輸送サービスを行うもの(高橋・加藤2020)」であり,2010年以降,全国各地で様々な取り組みが開始された.日本における貨客混載に関する研究は,近年蓄積されつつあり,以下の2つに大別される.すなわち,事例の全体的な傾向を分析した研究と,個別の事例を分析した研究である.これらの研究から,様々な知見が明らかとなったが,各事例の継続状況等を分析した研究は管見の限りみられない.また,農産物を輸送する事例を対象とした研究において,各生産者が貨客混載をどのように利用し,どのような評価をしているか,十分に分析されているとは言い難い.特に,近年,農産物直売所への出荷が困難な高齢生産者の存在も指摘されており,貨客混載がこの課題に対してどのような役割を果たすか,関連付けて分析する必要もあるだろう.以上を踏まえ,本研究は,貨客混載のなかでも宅配便を輸送する事例を網羅的にとりあげ,その継続・中断等の現状と,貨客混載に対する各交通事業者の評価を明らかにする.また,貨客混載のなかでも農産物を輸送する事例(兵庫県三田市)をとりあげ,その利用状況等の現状と,貨客混載に対する各生産者の評価を明らかにする. 2.宅配便輸送の貨客混載に関する分析 宅配便を輸送する貨客混載の現状を分析するため,宅配事業者のニュースリリースと新聞記事の整理,交通事業者へのアンケート調査と聞き取り調査を実施した.その結果,主に以下の2点が明らかとなった.第一に,中断もしくは長らく利用実績がない状態の事例が少なくないということである.この要因として,新型コロナウイルス感染症の流行による影響や,宅配事業者の都合等の回答がみられた.第二に,配送ドライバーの働く環境の改善等,貨客混載による宅配事業者のメリットが大きい一方で,交通事業者の経済的なメリットは十分とは言えないということである.今回の調査では,貨客混載による収入に対して肯定的な回答をした交通事業者は少なく,地域貢献活動として評価する事業者の方が多く確認された. 3.農産物輸送の貨客混載に関する分析 農産物を輸送する貨客混載の現状を分析するため,生産者へのアンケート調査と聞き取り調査を実施した.その結果,主に以下の3点が明らかとなった.第一に,貨客混載が出荷に制約を抱える生産者の重要な出荷手段となっていたということである.農産物直売所への出荷は,基本的に生産者自ら行う必要があり,車や運転免許を持たない生産者や,運転に不安を感じる生産者にとって大きな負担となっていた.そのような中で,各生産者の需要と貨客混載がうまくかみ合わさり,一定の成果を上げていた.第二に,貨客混載を利用する生産者,および利用の仕方は多様であるということである.出荷に制約を抱える生産者はもとより,収穫される品物の傷みやすさにあわせて車出荷と貨客混載をうまく使い分ける生産者も確認された.また,農産物直売所の陳列場所の違いから売れ行きも異なり,小規模な生産者だけではなく,ある程度の農業規模を持つ生産者にも積極的に利用されていた.第三に,貨客混載の利用者同士の集いが形成され,そこでの会話を評価する生産者が多いということである.多くの生産者は,貨客混載の導入によって,生産者同士や農協の職員とゆっくり会話できるようになったと語り,気晴らしや情報交換の場となっていると高く評価していた. 4.おわりに 以上を整理すると,路線バスを利用した貨客混載の現状として,貨客混載が関係主体へ様々な波及効果をもたらしているといえる.宅配便輸送の貨客混載では,多くの交通事業者が経済的なメリットよりも地域貢献活動の一環として貨客混載を評価していたが,物流事業者に与えるメリットは大きかった.また,農産物輸送の貨客混載では,出荷に制約を抱える生産者をはじめ,地域の生産者へ与えるメリットが数多くみられた.このように,貨客混載による関係主体への波及効果は大きく,今後は貨客混載によって発生する経済的な側面に限らず,波及効果も含めた視点で貨客混載を分析,評価することが重要であろう.