アジア経済
Online ISSN : 2434-0537
Print ISSN : 0002-2942
論文
東アジアにおける輸出構造の高度化――中所得国の罠へのインプリケーション――
熊谷 聡黒岩 郁雄
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2020 年 61 巻 2 号 p. 2-35

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《要約》

1人当たり所得の水準が同じ時点でみると,韓国,中国など北東アジア諸国と比較して,マレーシア,タイなど東南アジア諸国の経済成長率は低い。その原因として,輸出や産業構造の高度化の差異が考えられる。本論文前半では,各国の貿易高度化指標を作成し,素材・部品・消費財といった各生産ステージ内の高度化と各ステージ間の輸出シェアの変化による高度化に分解して分析した。両地域とも1990年代以降一貫して生産ステージ内の高度化が進んでいるが,東南アジア諸国においては,2000年代以降,生産ステージ間では退化がみられた。後半では,アジア国際産業連関表を技術水準別財区分に変換したうえで,付加価値貿易分析を行った。輸出比率を比較すると,ハイテク財の輸出比率と付加価値ベースの輸出比率の間に大きな乖離があることが明らかになった。また,輸出のうち海外に漏出する付加価値の割合を示すVSシェアを見ると,東南アジア諸国のVSシェアは高く,東南アジア諸国は北東アジア諸国が供給する中間財に強く依存する一方で,下流から上流産業に向けて輸出構造が高度化する雁行型の産業発展は明確にはみられない。

Abstract

The growth rates of Malaysia and Thailand are generally lower than those of Northeastern Asian countries such as South Korea and China when compared at the same level of per capita income. This difference could be caused by differences in the degree of export/industrial upgrading. In the first half of this paper, we construct an export sophistication index and decompose it into within-and between-production-stage factors. We find that both Northeast and Southeast Asian countries have successfully upgraded their export structure within each production stage during the period 1990-2015. However, after 2000, the Southeast Asian countries have failed to upgrade their export structure to a more sophisticated production stage, such as capital goods and parts/components. In the second half of this paper, we analyze trade in value added using international input-output data to investigate the value added content of high-tech exports. We find a significant change in the share of high-tech exports when considering the share of domestic content in exports. Furthermore, Southeast Asian countries have notably high vertical specialization shares (i.e., the share of foreign content in exports) because they heavily depend on intermediate inputs supplied by Northeast Asian countries. Moreover, the flying geese pattern of industrial development, which reflects export structure upgrading from downstream to upstream industries, is not observed in Southeast Asian countries.

 はじめに

Ⅰ 先行文献の整理

Ⅱ 貿易からみた産業高度化

Ⅲ 産業連関からみた産業高度化

 おわりに

はじめに

その目覚ましい成功が世界銀行[1994]の「東アジアの奇跡」によって分析され,脚光を浴びてから20年あまり,東アジアの経済発展は転換点を迎えているようにみえる。タイでは2010年代に入って経済成長率が低迷し,中国では一時10パーセントを超えていた経済成長率が6パーセント台にまで低下してきている。東アジアの経済成長の鈍化についての議論の中心にあるのが,いわゆる「中所得国の罠(middle-income trap)」の概念で,ギルらによって提示されて以来[Gill and Kharas 2007],国際機関や東アジアの発展途上国政府によって盛んに取り上げられてきた。

なかでも,北東アジアと比較して東南アジアでは中所得国の罠の議論がより真剣に行われている。マレーシアを例に挙げると,2010年に発表した新経済モデル(New Economic Model: NEM)のなかで,その策定を主導した国家経済諮問評議会(National Economic Advisory Council: NEAC)は,マレーシアは中所得国の罠に陥っていると認めている[NEAC 2010, 59]。また,タイでは近年経済成長率が大きく低下し,中得国の罠から逃れることを長期的な目標の1つとして,東部臨海経済開発計画(Eastern Economic Corridor)を開始している。

こうした東南アジアでの中所得国の罠の議論の盛り上がりの1つの要因は,東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian Nationas: ASEAN)の4カ国(インドネシア,マレーシア,タイ,フィリピン)が中所得国の段階にあり,特にマレーシアとタイは上位中所得国に位置し,高所得国入りを目指す位置にあることによる。加えて,すでに高所得国入りを達成した東アジアの日本,韓国,台湾などの国・地域や,特に2010年代には年率10パーセントを超えるような超高成長を続けてきた中国と比較して,東南アジアの経済成長率が全般的に低いものになっているという認識がある。

実際,1人当たり所得が同程度の時点での10年平均での1人当たり所得の成長率を国別に比較してみると,この認識は基本的に正しいことが分かる。図1は,横軸に対数を取ったドル建ての1人当たりGNIの水準を,縦軸には10年間の平均での1人当たりGNIの成長率をとったものである。データは1970年から2010年のもので,線で結ばれている4つの点は,1970年代,1980代,1990年代,2000年代の各国の所得水準と成長率の関係を示している。

図1 各国の所得水準と経済成長率の関係(1970年代~2000年代)

(出所)戸堂[2015]図5-2を参考にWorld Development IndicatorsおよびUN Comtradeデータベースより筆者計算。

このからは,韓国,中国の北東アジアの各国については,中所得時点では1人当たり国民所得(Gross National Income: GNI)が7~10パーセントという高成長を記録している(注1)一方で,成長が停滞していたフィリピンを除いたとしても,マレーシア,タイ,インドネシアの1人当たりGNIの伸びが5パーセント以下にとどまっていることが分かる。これは,中所得国の段階で10年平均でもマイナス成長が散見されるラテンアメリカの国々(ブラジル,アルゼンチン,チリ,ペルー)よりは高いものの,北東アジア各国に比べると明らかに低い。

本論では,東アジア各国の産業高度化が,1990年代以降どのように進展(停滞)しているのかについて,北東アジア(韓国,中国,日本)と東南アジア(マレーシア,タイ,インドネシア)の差違に注目しながら検証する。最初に貿易データによる分析では,貿易構造の高度化指標を,素材・部品・最終財といった各生産ステージ内での高度化とステージ間での高度化に要素分解することで,雁行形態的な側面から,貿易構造がより洗練された財へシフトしているかどうかを検証している。続いて,技術水準の視点から貿易構造の高度化を分析するために,国際産業連関表を用いて付加価値ベースの輸出比率を推計する。付加価値ベースの輸出比率を推計する理由は,東アジアでは工程間分業が進展し輸出を行うためには多くの部品・中間財を海外から輸入する必要があり,輸出額と創出される付加価値額がしばしば大きく異なるためである。本論では,垂直貿易の指標であるVSシェア,VS1シェアを用いて,輸出によって国内で発生する付加価値と海外で発生する付加価値の関係について分析する。

本論は,以下のように構成される。第Ⅰ節では,中所得国の罠に関する議論について先行論文を整理し,東アジアについては産業高度化の失敗への懸念が強いことを示す。第Ⅱ節では,主に輸出の洗練度を示す指標を用いて,東アジアにおける貿易面での産業高度化がどのように進展(停滞)してきたのかを示す。第Ⅲ節では,国際産業連関表を用いて東アジア諸国の貿易構造を技術水準の視点から比較する。おわりに,で本論の分析結果をまとめ,その背後の理由について考察する。

Ⅰ 先行文献の整理

コーリー等は中所得国の罠を「低所得・低賃金経済と製造業品の輸出で競争することができず,ハイスキルのイノベーションでは先進国と競争できない」状態と定義した[Kohli, Sharmaand Sood 2011]。このような,中所得国が高所得国と低所得国の板挟みにあって行き場を失うという議論は直感的には分かりやすい。

中所得国の罠についての代表的な研究のうち,フェリペは1990年時点の所得水準で2000米ドル以下を低所得国,2000米ドルから7250米ドルを下位中所得国,7250米ドルから1万1750米ドルを上位中所得国,それ以上を高所得国と定義したうえで,過去に各国が何年で直近上位の所得カテゴリーに移行したのかについて中位値を計算し,移行に一定以上の期間を要している国を「中所得国の罠」に捕らわれていると定義した。下位中所得国では,上位中所得国への移行に28年以上(1人当たり所得の成長率が年平均4.7パーセント未満)要した場合,上位中所得国では,高所得国への移行に14年以上(同3.5パーセント未満)要した場合,中所得国の罠に捕らわれていると定義される[Felipe 2012]。

この定義に従えば,2010年時点で35カ国が中所得国の罠に陥っており,マレーシアとフィリピンは東アジアの中で中所得国の罠に陥った国とされている。マレーシアは2010年の時点で,15年間上位中所得国に,フィリピンは34年間下位中所得国のカテゴリーにとどまっているためである。

一方,アイケングリーン等は中所得国の「経済の減速」を以下のように定義した。(1)減速前の経済成長率が年率3.5パーセント以上である,(2)減速前と減速時の経済成長率の差が2パーセント以上あること,(3)対象国の所得が2005年基準で1万ドル以上あること[Eichengreen, Park and Shin 2013]。ある時点を境に前後7年の経済成長率を比較するこの手法によれば,東アジアでは,マレーシア,台湾,韓国などが,アジア通貨危機前後に「経済の減速」を経験しているとされる。

中所得国の罠が生じる要因としては,様々なものが考えられる。アゲノールは中所得国の罠が生じる要因として,(1)物的資本の収穫逓減,(2)安価な労働力と模倣機会の消失,(3)低質な人的資本,(4)歪んだインセンティブと人的資本の誤った配置,(5)先進的インフラへのアクセスの欠如,(6)金融へのアクセスの欠如,(7)所得分配の不平等,をあげている[Agénor 2017]。なかでも,中所得国となって賃金が上昇し低所得国との競争が不利になる一方で,技術的能力や生産性などの面で高所得国と互角に競争できないことが成長率低下の大きな原因である。したがって,人的資本などを含む技術的能力や生産性に影響を与える要因に着目する必要がある。

一方で,東アジア各国で懸念されている中所得国の罠については,多くの論文で「産業高度化の失敗」がその原因として想定されている。例えば,大野はASEAN各国の産業発展について,「地場の中小企業が存在するが外資の指導が必要な状況」と「地場企業が高品質な財を生産するための経営・技術を獲得した段階」の間に「ガラスの天井」があり,人的資本の継続的な高度化の失敗が中所得国の罠の原因になっていると指摘した[Ohno 2009]。ユスフ・鍋嶋は産業連関の弱さとイノベーション能力の不足により,マレーシア・ペナンは産業高度化,多様化に失敗していると結論している[Yusuf and Nabeshima 2009]。他方で開発途上国の持続的な発展にとって,産業高度化や輸出構造の高度化が重要な役割を果たすことが明らかになっている。

ラルは,比較優位の決定における技術習得能力の重要性を強調する「ケーパビリティ・アプローチ」の視点から,経済成長には輸出構造の高度化が不可欠であると述べた。その理由として,第1にハイテク財を含む技術集約的な輸出構造は,高い市場の成長性,学習機会,高度化の余地,他活動へのスピルオーバーなどの面で優位である。第2に,輸出構造は,過去に蓄積された学習,集積,制度,ビジネス文化などによって影響を受けるため経路依存的であり,変化させるのは難しい。また,技術を習得する過程では,外部性,コーディネーションなどの市場の失敗が発生するため,政府による市場介入が必要である。

ラルは,これらの仮説を踏まえて,輸出データを技術水準別に分類して,1985~98年の期間における輸出成長率を比較した。その結果,開発途上国では一次産品や資源加工の輸出成長率が最も低く,技術水準が高度化するほど輸出成長率が高くなることが明らかになった[Lall 2000]。

同様な問題意識から,ハウスマンを中心とするハーバード大学の研究者達が新たな分析手法を使って世界各国の輸出構造について分析した。ハウスマン等は,輸出国の所得データを使って各輸出財の洗練度を表す指標(PRODY)を作成し,続いてPRODYを使って国全体の輸出構造の洗練度を表す指標(EXPY)を計算した[Hausmann, Hwang, and Rodrik 2007]。その結果,初期時点のEXPYが高く洗練度の高い財を多く輸出する国ほど,それ以降の経済成長率が高くなることが明らかになった(具体的には,1992~2003年のデータを用いて,EXPYが10パーセント高いと経済成長率が0.5パーセント高まり,さらに1962~2000年のデータを用いて同様の分析を行うと,経済成長率が0.14~0.19パーセント高まるという結果を得ている)。さらにフェリペ等は,中所得国の罠の視点から,高所得国へと移行した国々の(移行時の)輸出構造の洗練度や多様化のレベルは中所得国の罠に陥っている国々よりも高いことを明らかにした[Felipe, Abdon, and Kumar 2012]。

他方,ハウスマンとクリンガーは,プロダクトスペースという概念を導入して,輸出構造の経路依存性について検証した[Hausmann and Klinger 2007]。顕示比較優位(RCA)に関するデータを使って財同士の関連性や近接性を計測した結果,財の比較優位は相互に関連性が強く近接性が高い財へと移転していくため,近接する財が周りに多く存在するような財に特化しないと,輸出のより高度な財への移行がスムーズに進まず,経済発展に困難をもたらすことが示された。通常,密度が高く他財との関連性が強いのは機械,金属製品,化学などの製造業であり,反対に未加工の農産品などは密度が低い。

以上のように,中所得国の罠については様々な原因が考えられる。なかでも技術習得能力に影響を与える人的資本などの継続的な高度化の失敗が本源的な原因であるという指摘には説得力があるように思える。一方,輸出構造は技術習得能力などの影響を受けるものの,それ自体の高度化が経路依存性を通じて経済成長に影響を与えるという指摘は重要である。本論では,後者の因果関係に焦点をあて,東アジアにおける輸出構造の高度化について検証を行う。特に北東アジアと東南アジアの輸出構造を比較して,両者の間に明確な差があるかどうか明らかにしたい。

Ⅱ 貿易からみた産業高度化

1. PRODY・EXPY

財の高度化のレベルを示す分かりやすい指標として輸出単価(Unit Price)がある。財の価格は革新性を反映しており,輸出単価の高い財ほど高度な財であるという想定にはある程度の妥当性がある。また,高度な財ほど価格競争が厳しくないため時系列でみて価格の低下が緩やかであると考えることもできる(注2)

ただし,必ずしもすべての財・すべての国について輸出単価のデータを入手できるわけではない。また,財によって輸出単価のベースとなる数量単位は様々であるため,財をまたいで輸出単価を単純平均しても意味をもたない。したがって,ある国の輸出全体がどの程度高度であるかを示す指標として輸出単価を用いることは容易ではない。

この点で,前述のPRODY・EXPYは,ある国の輸出が高度なものかどうかを示す指標として扱いやすいため,貿易構造に関する多くの研究で用いられている[Abdon et al 2010; Felipe, Abdon, and Kumar 2012]。PRODY・EXPYの利点は,計算に必要なデータの入手が比較的容易な点にある。ハウスマン等の計算方法に倣えば,HSコード6桁レベルの輸出額と各国の1人当たりGDPのデータがあれば,計算が可能である。

PRODYは特定の財について,その輸出国の所得水準を当該国の輸出に占める当該財のシェアで加重平均したもので,これが高いほど高度な財とみなされる。PRODYは平均して所得水準が高い国々が輸出している財ほど高度な財である,という発想に基づく。EXPYは特定の国について,その国の輸出構造に応じてPRODYを加重平均したものである。これにより,一国の輸出構造がどれだけ高度であるかを示すことができる。

PRODYおよびEXPYは次のように計算される。

  
\[PRODY_j=\sum_{i}\frac{(x_{ij}/X_{i})}{\sum_{i}(x_{ij}/X_{i})}GDP_{i}, X_{i}=\sum_{j}x_{ij} \qquad\quad\ldots\ldots(1)\]

ただし,\(x_{ij}\) は \(i\) 国の \(j\) 財の輸出額。

  
\[EXPY_i=\sum_{j}\frac{x_{ij}}{X_{i}} PRODY_j\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\ldots\ldots(2)\]

ここでは,東アジア各国について,ハウスマン等[Hausmann, Hwang and Rordik 2007]の手法にできるかぎり従ってPRODYおよびEXPYを計算する。ハウスマン等は,PRODYを算出する際の貿易データとしてUNCOMTRADEデータベースを用い,HSコード6桁レベルで1999~2001年のデータを用いた。また,各国の1人当たりGDPについては世界銀行のWorld Development Indicators(WDI)のデータからPPP調整済みGDPを用いている。さらに,サンプル選択によるバイアスを防ぐために,1999年~2001年まで,貿易データとGDPデータの両方が継続して入手可能な113カ国を対象にPRODYを計算している。

本論ではまず,ハウスマン等に従いPRODY・EXPYを計算するが,データの入手可能性によっていくつか相違が生じている。まず,データ計算となる国数が,ハウスマン等の113カ国に対して本論では97カ国となっている。これは,後に1999~2001年のデータをベースしたPRODYとは別に,2009~11年ベースのPRODYを計算して指標の頑健性を検証しているため,両方の期間でデータが入手可能な国のみをサンプルとして用いたことによる。また,本論でもPPP調整済みGDPをPRODYの計算に用いる。ただし,本論では,WDIから現在入手可能な2011年ベースのPPP調整済み実質GDPの数値を用いている。ハウススマン等は2001年ベースのPPP調整済み実質GDPを用いているため,PRODYの絶対的な水準について本論のものと直接比較することはできない。

本論では,HS1996ベースで計算された2000~15年のデータを用いて同期間のPRODY・EXPYを作成し,さらにHS1988/1992とHS1996のコンバータを用いて1990年(中国のみ1992年)~2000年のデータを作成,両者を接合して1990~2015年のデータとして分析を行っている。

まず,本論でも式(1)に従ってPRODYを計算する。その際に,1999~2001年の平均であるPRODY2000と2009年~11年の平均であるPRODY2010を計算している。表1はPRODY2000およびPRODY2010の要約統計量およびハウスマン等のPRODYの要約統計量を示したものである。ハウスマン等のPRODYとPRODY2000を比較すると,同時期のPRODYであるにも関わらず,その平均はPRODY2000の方が大きくなっている。これは,元となるPPP調整済みGDPの基準年が異なるためである。一方で,データ数や分散などは類似したものとなっている。また,PRODY2000とPRODY2010を比較すると,PRODY2010年の方が世界の平均1人当たりGDPが上昇している分,値が大きくなっている。

表1 PRODYの要約統計量

(出所)Table 2, Hausmann et al. 2007およびWorld Development IndicatorsおよびUN Comtradeデータベースより筆者計算。

表2はPRODY2000とPRODY2010について最大5品目と最小5品目を示したものである。PRODY2000の最小5品目のうち2品目,最大5品目のうち2品目はハウスマン等のPRODYと共通である。PRODY2000とPRODY2010を比較すると,品目の入れ替わりはあるが,最大品目は鉄鋼類が多く(注3),最小品目は一次産品が多い傾向は維持されている。

表2 PRODY2000およびPRODY2010の上位・下位5品目

(出所)World Development IndicatorsおよびUN Comtradeデータベースより筆者計算。

図2はPRODY2000とPRODY2010の対数値をプロットしたものである。対数を取ってPRODY2000とPRODY2010の相関をとると.754となり,また順位の相関をとると.746となる。10年の間隔でPRODYを比較しても,一定の安定性があることが分かる。

図2 PRODY2000とPRODY2010の相関

(出所)World Development IndicatorsおよびUN Comtradeデータベースより筆者計算。

一方で,個々の品目についてPRODYの変化をみると,10年の間に大きく変動している品目があることが分かる。例えば,「鉱山用貨車押し機(HS842850)」はPRODY2000では2万4826米ドルであるがPRODY2010では2406米ドルに低下している。逆に,「金を張った卑金属及び銀(HS710900)」はPRODY2000では4640米ドルであるがPRODY2010では3万5713米ドルに上昇している。したがって,HSコード6桁レベルで個別の品目について,PRODYを用いてそれが高度な財であるかどうかを議論する際には注意を要する。

次に,EXPYを式(2)に基づいて計算する。このとき,PRODY2000を用いて2000年について計算されたものをEXPY2000と呼び,PRODY2010を用いて2010年について計算されたものをEXPY2010と呼ぶ。表3はEXPY2000とEXPY2010について,上位5カ国を示したものである。EXPY2000の上位5カ国中3カ国,下位5カ国中2カ国はハウスマン等のEXPYと共通である。EXPY2000とEXPY2010を比較すると国の入れ替わりはあるが,上位は先進工業国が多く,下位はアフリカの国が多くなっている。EXPY2000とEXPY2010について対数を取って相関をとると.883となり,また順位の相関をとると.909となる。10年の間隔でEXPYを比較すると,かなり高い安定性があることが分かる。

表3 EXPY2000およびEXPY2010の上位・下位5カ国

(出所)World Development IndicatorsおよびUN Comtradeデータベースより筆者計算。

2. 東アジア各国のEXPYの推移

続いて,東アジア各国についてEXPYの推移を分析する。ここでは,日本・韓国・中国の北東アジア3カ国とタイ・マレーシア・インドネシアの東南アジア3カ国,合計6カ国を分析対象としている。分析期間中に上位中所得国に属している韓国(注4)・中国とマレーシア・タイの4カ国の比較を中心とするが,先進国のベンチマークとして日本を,下位中所得国のベンチマークとしてインドネシアの2カ国も分析対象に加えている(注5)図3はPRODY2000に基づくEXPYをこの6カ国について,1990~2015年まで示したものである。

図3 東アジア6カ国のEXPYの変化(1990-2015年)

(出所)World Development IndicatorsおよびUN Comtradeデータベースより筆者計算。

EXPYを輸出構造の高度化の指標としてみた場合,図3は東アジアの現実に対する直感的な理解とある程度の整合性があると言える。2015年の東アジア各国のEXPYの順序を上からみると,日本,韓国,中国,マレーシア,タイ,インドネシアとなっており,中国とマレーシアが逆転している以外は各国の1人当たりGDPの順序と一致する。1990年代に日本を除く5カ国のEXPYが大きく上昇していることも,この時期に東アジアで工業製品の生産ネットワークが発展したことと対応している。また,2007年の世界金融危機以降,日本やタイのEXPYが頭打ちになる一方で,中国と韓国のEXPYが伸びていることも,この時期,中国や韓国の製造業関連企業が世界市場でのプレゼンスを高めていることに鑑みて直感的に理解できる。さらに,2000年代に入ってからのマレーシアとインドネシアのEXPYの停滞も,この時期,資源ブームによって両国の輸出に占める一次産品の比率が高まっていることと整合的である。

図3からは,中国・韓国とマレーシア・タイの間で輸出構造の高度化について差がついたのは2000年代中盤以降であることが読み取れる。韓国とマレーシアのEXPYを比較すると,2000年時点ではかなり近い水準にあったが,2015年にかけてマレーシアのEXPYが停滞する一方で,韓国のEXPYは上昇して日本に近づいている。一方,中国とタイのEXPYを比較すると,2000年時点ではほぼ同じ水準であったのが,中国のEXPYはその後2015年までに大きく伸びてマレーシアを上回ったのに対し,タイのEXPYも伸びてはいるものの,特に2007年の世界金融危機後は伸び悩んでいることが分かる。

3. 生産段階別EXPYを用いた分析

このように,EXPYは各国の輸出構造を通じて産業高度化を把握する際の1つの指標となり得る。一方で,HSコード6桁レベルのPRODYを用いて各国のEXPYを計算することの問題点の1つは,変動要因についての分析が難しいことである。ある国のEXPYを時系列でみた際に,HSコード6桁レベル(約5000品目)では財の数が多すぎるため,どの品目のPRODYの変化がEXPYの増減に影響しているのかを分析することは容易ではない。1品目を取り出して寄与度を計算してもEXPYの変化への影響は小さく,意味のある分析を行うためには,財をある程度グループ化することが必要になってくる。ただ,この際に,意味のある分類に従って集計しなければ,単に粗い品目でPRODY/EXPYを計算しただけになってしまう。

そこで,本論では,HSコード6桁レベルの品目を,RIETI-TID(注6)で用いられている5つの生産段階(ステージ)別の財の分類,すなわち,「資本財」「部品」「消費財」「一次産品」「加工品」に集計してEXPY/PRODYを求めることにする。

この5つのステージを中間層として導入することで,EXPYを計算する際に,まず各生産ステージ別にEXPYを計算し,さらにそれを再度集計することで,一国のEXPYを計算することができる。すなわち,

  
\[EXPY_i=\sum_s\frac{x_{is}}{X_{i}}EXPY_{is}\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\ldots\ldots(3)\]
  
\[EXPY_{is}=\sum_{j\in s}\frac{x_{ij}}{x_{is}}PRODY_j\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\]

ただし,\(EXPY_{is}\)は \(i\) 国の生産ステージ \(s\) についてのEXPY。\(x_{is}\) は \(i\) 国の生産ステージ \(s\) に属する財の輸出額,\(x_{ij}\) は \(i\) 国の財 \(j\) の輸出額,\(X_i\) は \(i\) 国の全輸出額となる。

このようにEXPYを2段階で集計することで,EXPYの変化を生産ステージ内の変化と生産ステージ間の変化に分解することも可能になる。生産ステージ内でのEXPYの上昇は,同一の生産ステージ内でより洗練された財に輸出の中心がシフトするケースで生じる。例えば,同じ「消費財」に分類されるものの中で,輸出の中心が衣料品のようなシンプルな消費財から,家電製品のようなより洗練された財にシフトするケースである。生産ステージ内でのEXPYの上昇は,各生産ステージの内部でより高度なものが輸出されるようになる状況で,漸進的な構造変化と捉えられる。一方で,生産ステージ間のEXPYの上昇は,一国の輸出に占める産業のシェアが変化し,輸出の中心が消費財からより洗練された資本財にシフトするようなケースで生じる。生産ステージ間でのEXPYの上昇は,より本質的な輸出構造の高度化と捉えることができる。

図4は北東アジア・東南アジアの6カ国について,2000年時点のEXPYを国別・生産ステージ別に集計したものである。生産ステージ別EXPYの6カ国の平均値は,低い方から一次産品(1万4991米ドル),消費財(1万9549米ドル),加工品(2万217米ドル),部品(2万5305米ドル),資本財(2万5664米ドル)となる。また,各生産ステージ内でのEXPYのばらつきにも差がある。一次産品については,タイのEXPYが1万1103米ドルと低い以外は,各国とも1万5000~1万6000米ドル台となっている。部品・資本財については,すべての国についてEXPYが2万4000~2万7000米ドル台に収まっている。一方で,消費財については各国のEXPYに大きな差がある。最小のインドネシアのEXPY(1万5195米ドル)は一次産品の6カ国平均のEXPYと同水準であり,最大の日本のEXPY(2万7493米ドル)は部品や資本財の6カ国平均EXPYを上回る水準となっている。これより,一次産品は一様に洗練度が低く,部品や資本財は一様に洗練度が高い一方で,消費財については同一生産ステージでもEXPYの幅が大きく,ステージ内での高度化の余地が大きいことが分かる。

図4 国別・生産段階別EXPY(2000年)

(出所)World Development IndicatorsおよびUN Comtradeデータベースより筆者計算。

続いて,各国の1990~2015年のEXPYについてより詳しく分析することで,輸出構造の高度化に差がついた要因を探る。6カ国の1990~2015年のEXPYの変化について財別で生産ステージ内・生産ステージ間変化の寄与度を示したのが表4a~4fである。韓国(表4a)については,1990年代は生産ステージ間の高度化も一定程度あり,特に輸出に占める消費財シェアの低下と部品・資本財シェアの増加が顕著である。しかし,寄与度でみると,生産ステージ内での高度化のほうが1.5倍程度大きい。2000年代以降については,既にある程度産業高度化が進んでいるため生産ステージ間の高度化の寄与度は大きくないものの,それでも資本財と部品のシェアが増えて生産ステージ間高度化に貢献したことが分かる。一方で,生産ステージ内高度化は生産ステージ間高度化の4倍程度の寄与度があり,部品,消費財,加工品の寄与度が大きくなっている。

表4 ステージ内・ステージ間のEXPYの変化

(出所)World Development Indicatorsおよび UN Comtradeデータベースより筆者計算。

マレーシア(表4b)の場合,1990年代については,一次産品から資本財・部品への急速なシフトがみられ,ステージ間の高度化の寄与度が非常に大きくなっている。一方で,ステージ内高度化の寄与度も高い。2000年代以降については,生産ステージ内の高度化は引き続き寄与度が大きく,韓国とそれほど遜色ないほど進んだにも関わらず,生産ステージ間の寄与度が大幅なマイナスとなっていることが分かる。特に,EXPYが相対的に低い加工品の輸出シェアが2000年以降大幅に高まり,逆に資本財や部品のシェアが減少したことがEXPYを低下させる大きな原因となっていることが分かる。

中国(表4c)の場合,1990年代についてはステージ内・ステージ間の高度化は進んでいるものの,他の3国と比較するとやや見劣りする。一方で,2000年代以降は生産ステージ内・生産ステージ間ともに高度化が加速している。生産ステージ間では,資本財や部品の輸出シェアが伸びたことと,消費財と一次産品がシェアを減らしたことが高度化に大きく貢献している。生産ステージ内でみると,一次産品を除くすべての産業で順調に高度化が進んだことがうかがえる。

タイ(表4d)の場合,1990年代は生産ステージ内・ステージ間ともに高度化が順調に進んでおり,特に消費財から資本財・部品へのシフトが進んだことがEXPYの上昇に寄与している。一方で,2000年以降は生産ステージ内の高度化は進んでいるものの,ステージ間の高度化の寄与度はゼロとなっている。資本財の輸出シェアが伸び,消費財のシェアが減ったことは生産ステージ間高度化に貢献しているが,加工品のシェアが増え,部品がシェアを減らしたことが,プラス分を相殺してしまっていることが分かる。

このようにみてくると,1990年代はむしろ,東南アジア2カ国(マレーシア・タイ)の方が北東アジア2カ国(韓国・中国)よりも,主に生産ステージ間の高度化の面で勝っていたことが分かる。ところが,2000年から2015年への変化について韓国とマレーシアを比較すると,韓国の生産ステージ間の高度化の寄与度がそれほど大きくないもののプラスとなる一方,マレーシアの場合はこの期間を通じて生産ステージ間の高度化の寄与度は大幅なマイナスになっている。中国とタイを比較すると,2000年代,中国が消費財の輸出から資本財・部品の輸出に急速にシフトしているのに対し,タイの輸出構造は2000年代初頭からほとんど変化していないことが分かる。

日本(表4e)については,1990年代はステージ内での高度化がある程度進む一方で,ステージ間の高度化はほとんどなかった。2000年代になるとステージ内の高度化もほとんどなくなり,輸出の高度化は停滞している。

インドネシア(表4f)については,1990年代はステージ内,ステージ間ともに産業高度化が進んでいた。しかし,2000年代以降は一次産品のシェアが伸びて資本財と部品が減少したことでステージ間の高度化がマイナスに転じ,ステージ内の高度化も日本を除く他の4カ国に比べて小さいものにとどまっている。

まとめると,この韓国・中国・マレーシア・タイの4カ国に共通して,生産ステージ内の高度化は全期間通して一定程度進んでいることが分かる。これは,各企業が自らの既存の事業領域について,付加価値を高める努力を続けていることの現れだといえる。一方で,北東アジア2カ国と東南アジア2カ国で輸出高度化に差が生まれたのは2000年代以降で,その要因は生産ステージ間の高度化が東アジア2カ国では緩やかながら進んだのに対し,東南アジアの2カ国では停滞または逆行しているためである。

それでは,なぜ2000年以降,北東アジア2カ国と東南アジア2カ国では輸出高度化において差が生じたのだろうか。第1に,東南アジア2カ国では2000年代の資源ブームの結果,資源集約型産業のシェアが拡大して部品・資本財産業のシェアが縮小したことが影響している。資源輸出国であるインドネシアの状況が類似していることからも,これは裏付けられる。第2に,こうした「資源の罠」を除いても,東南アジア2カ国は北東アジア2カ国と比べて,消費財から中間財・資本財への雁行形態的な生産ステージ間の高度化が遅れていることがあげられる。この背景には様々な要因が考えられるが,後述するように多国籍企業に依存することで技術吸収が遅れ,本質的な輸出高度化に時間がかかることも一因となっている可能性がある。

Ⅲ 産業連関からみた産業高度化

前節では,貿易データを使って,輸出構造の洗練度をステージ間およびステージ内のEXPYの変化に分けて分析した。その結果,2000年代以降北東アジア諸国と東南アジア諸国の間にはトレンドの変化に明確な違いがあることが分かった。本節では,技術水準の視点から輸出構造を比較する。ラルが指摘するように,ハイテク財輸出は輸出構造高度化を示す重要な指標である[Lall 2000]。しかし,後述のように,ハイテク財の輸出比率の上昇は,北東アジア諸国だけではなく,東南アジア諸国においてもみられた。本節では,財別の輸出比率だけではなく,その背後にある国内の産業連関や輸入構造を考慮に入れた付加価値ベースの輸出比率を使用する。

1. 技術水準別貿易構造の比較

輸出構造の高度化と生産ネットワークの関係が大きな注目を浴びたのは,中国の事例である。中国は,2001年のWTO加盟を契機として多国籍企業が主導する生産ネットワークに本格的に参入した。その結果,輸出構造が急速に高度化して,多くの研究者達から注目を浴びるようになった。例えば,ロドリックは,PRODYとEXPYを使いながら,中国が幅広い分野で洗練された財を輸出しており,その輸出構造は1人当たりGDPが3倍高い国に相当することを示した[Rodrik 2006]。またショットは,フィンガーとクレイニン[Finger and Kreinin 1979]が開発した輸出類似指数(ESI)を使って,中国の対米輸出構造が急速に洗練化して,2001年には非OECD諸国の中で3番目に高い洗練度になったことを明らかにした[Schott 2006]。

しかしながら,生産ネットワークにおける各国の位置づけの違いから,これらの分析に対して様々な批判が寄せられた。例えば,ラルは,ハイテク財の生産ネットワークの中で多くの開発途上国は労働集約的な工程を担っているだけであり,ハイテク財輸出の多くは「統計的な錯覚(statistical illusion)」に過ぎないと指摘した[Lall 2000]。他方,ショレックは,電子産業の輸出パフォーマンスは国内の技術水準と相関しているものの,輸出パフォーマンスを最もよく説明するのは電子部品の輸入性向であり,開発途上国におけるハイテク財輸出はハイテク財の部品輸入を反映したものであると結論づけた[Srholec 2007]。同様に,アミティとフロイドは,中国の製造業輸出のスキル・コンテントは急速に高まっているが,その高度化は加工貿易に用いられる輸入投入財に依存していることを明らかにした[Amiti and Freud 2010]。

上述のように,途上国のハイテク財輸出は,投入財の多くを輸入に依存しているため,輸出額だけをみると国内の技術水準を過大に評価する恐れがある。特にラルが指摘するように,途上国が労働集約的な工程を担っているだけの場合には,貿易データに依存してハイテク財の輸出比率を計算すると,過大評価の傾向はより一層顕著になる。したがって,開発途上国の輸出構造を検証するときには,輸出構造を比較するだけでは不十分であり,その背後にある投入財の輸入構造を同時に考慮する必要がある。本論では,輸出によって発生する付加価値から海外で発生する付加価値(=海外コンテント)を除外した,国内コンテントを取り上げる(注7)。そのため,裾野産業が未発達な開発途上国が生産ネットワークに参加した場合には,誘発された中間財輸入によって付加価値が海外に漏出するため,国内コンテントは大きく下落して,二重計算による過大評価を避けることができる。

表5は,東アジア6か国の財別輸出比率と付加価値(=国内コンテント)ベースの輸出比率を比較したものである(注8)同表の輸出額は,アジア国際産業連関表の中間財輸出と最終財輸出の合計額をコンバータによって変換したものであり,財の分類は,OECD[2011]に従って,ハイテク財,高位中テク財,低位中テク財,ローテク財,一次産品,サービスに分けられている(注9, 10)

表5 東アジアの技術水準別輸出比率(1990年,2005年)

(出所)アジア国際産業連関表(1990年,2005年)より筆者計算。

(注)輸出比率(財),輸出比率(VA)は,それぞれ技術水準別の(財)輸出比率,付加価値ベースの輸出比率を表す。

表5によると,1990年当時,北東アジアでは日本のハイテク財輸出比率が最も高く,韓国がそれに続いていた。一方東南アジアでは,マレーシアのハイテク財輸出比率が最も高く,日本,韓国の輸出比率を上回っていた。マレーシアにおいてハイテク財輸出に占めるシェアが高いのは,半導体・集積回路などを含む電子・電機産業であり,同国の電子・電機産業は多国籍企業の輸出拠点として発展した。しかし付加価値ベースの輸出比率で評価すると(計算方法は付論1を参照),財別の輸出比率と比較して,すべての国で輸出比率が低下しているが,特にマレーシアの落ち込みは顕著である。これは,ハイテク財を生産するために,中間財を大量に輸入して付加価値が海外に漏出したことを示唆しており,その結果,付加価値ベースの輸出比率は韓国に逆転されている。

一方,ハイテク財と対極的な動きを示すのが一次産品およびサービスである。これらの財,サービスは,他の財を生産するために中間財・サービスとして使われ,付加価値が他財に体化されて輸出されるため,財別の輸出比率以上に付加価値ベースの輸出比率は大きくなる傾向がある。例えば,マレーシアにおける一次産品の輸出比率は28.1パーセントであるのに対して,付加価値ベースの輸出比率は41パーセントに達しており,インドネシアに続いて高い。その結果,マレーシアは貿易額で示される以上に一次産品の輸出比率が高く,反対にハイテク財の輸出比率は低くなっている。

韓国,マレーシアと比較すると,中国,タイではハイテク財の輸出比率は低く,ローテク財の輸出比率は高い。ただし,タイの場合,ハイテク財の輸出比率は中国よりも高いが,高位中テク財,低位中テク財の輸出比率は低くなっている。またマレーシアでも,韓国と比較した際に同様な傾向がみられる。これは,マレーシア,タイでは,輸出構造が電子・電機産業を中心とするハイテク財に偏る一方で,(自動車,その他の機械,石油化学,基礎金属など)高位中テク財,低位中テク財の輸出比率が韓国,中国よりも低かったことを示唆している。

続いて韓国とマレーシアの2005年の輸出構造を比較すると,マレーシアにおいてハイテク財の輸出比率が急増しているが,付加価値ベースの輸出比率で比較すると,韓国と逆転している。さらに上位中テク財,下位中テク財では,上位中テク財(自動車等を含む)を中心に韓国の輸出比率が急増しており,マレーシアとの差が拡大している。

中国,タイでは,1990~2005年の期間に輸出構造が急速に高度化した。特に中国では,ハイテク財の輸出比率が3倍近く増加してタイを上回ったが,付加価値ベースで評価すると大幅に下落する。このような乖離は,ハイテク財を輸出するために多くの部品・中間財を輸入する必要があったことを示唆しており,先述のLall[2000]Srholec[2007]Amiti and Freud[2010]等の指摘とも整合的である。

なお,ハイテク財の輸出比率と付加価値ベースの輸出比率が大きく乖離する傾向は,中国のみならず,マレーシア,タイなど外資主導でハイテク財産業が急速に発展した国において共通にみられる現象である。以下では,財別の輸出比率と付加価値ベースの輸出比率が乖離した原因を探るため,輸出によって海外に漏出した付加価値(=海外コンテント)の割合を示すVSシェアを使って,東アジア諸国の輸入構造を比較しよう(計算方法は付論2を参照)。

表6によると,1990年時点では多くの東アジア諸国においてハイテク財のVSシェアは,上位中テク財,下位中テク財,ローテク財よりも高い。特にタイ,マレーシアでその傾向は顕著であり,技術水準が上がるにつれてVSシェアは増大し,ハイテク財では50パーセントを超えている。他方,技術的に成熟した日本においては,そのような傾向はみられず,VSシェアは(輸入原材料への依存度の高い石油化学,基礎金属などの素材産業を含む)低位中テク財で最も高くなっている。

表6 東アジア諸国の技術水準別VSシェア(1990年,2005年)

(出所)アジア国際産業連関表(1990年,2005年)より筆者計算。

2005年になると,インドネシアを除くすべての国でVSシェアは高まった。これは,東アジア域内で工程間分業が進み,中間財貿易の比率が高まったことを示唆している。特に中国におけるハイテク財のVSシェアは急増したが,マレーシア,タイのハイテク財のVSシェアはそれを上回り60パーセントを超えている(注11)

以上のように,技術水準の上昇とともにVSシェアが高まり,輸出に占める国内コンテントの割合が低下する傾向がみられる。特にその傾向は,中国とともにマレーシア,タイにおいて顕著であり,表5におけるハイテク財の輸出比率と付加価値ベースの輸出比率の乖離の原因になったと考えられる(注12)

2. ハイテク財のVSシェアの分解

上述のように,1990~2005年の期間に中国の輸出構造が急速に高度化し,ハイテク財の輸出比率がタイを上回るようになった。他方で,中国,マレーシア,タイではハイテク財のVSシェアが高く,ハイテク財を輸出すると多くの付加価値が海外に漏出する構造になっている。それでは,一体どの国のどの産業に対して付加価値が漏出しているのであろうか。本節では,財別,国別にVSシェアを分解することによって,付加価値ベースの輸入中間財の依存構造を検証する。

表7a表7bは,ハイテク財の中から半導体・集積回路およびその他ハイテク財を選び,2005年における両財のVSシェアを財別,国別に分解した結果である(計算方法は付論2を参照)。半導体の国内コンテント,海外コンテントを比較すると,韓国とマレーシア,中国とタイの間には大きな差異がみられる。表7aによると,韓国,中国の半導体の国内コンテントは50パーセントを超えるのに対して,マレーシア,タイの国内コンテントは36.3パーセント,17.0パーセントである。なかでも両国のハイテク財の国内コンテントは13.4パーセント,11.7パーセントを占めるに過ぎず,それを補うために海外コンテント(内生国)およびその他世界からの輸入が高くなっている。また海外コンテントの中でも,技術水準が高くなるほど海外(内生国)コンテントが高くなる傾向がみられ,特にマレーシア,タイでは,ハイテク財の海外コンテント(内生国)が11.3パーセント,19.1パーセントに達していた。これは,半導体・集積回路を生産するために必要となるハイテク部品・中間財を強く海外に依存し,急速な輸出構造の高度化に国内の産業基盤が対応できていないことを意味する。

一方,海外コンテントを国別に分解すると,2005年時点では,日本から投入される付加価値コンテントが依然として高いのが分かる。また他の北東アジア諸国のシェアも押しなべて高いため,タイ,マレーシアでは北東アジア諸国の占めるシェアが20パーセントを超えている。他方,東南アジア諸国の占めるシェアは必ずしも高くなく,10パーセントを超えるシェアはみられない。ただし国別にみると,工業化が進んだマレーシア,シンガポールのシェアは,東南アジア諸国を中心に比較的高い。またアメリカのシェアも高く,同国は日本,中国と並ぶ半導体部品・中間財の供給国としての地位を占めている。

表7a 半導体・集積回路のVSシェアの分解(2005年)

(出所)アジア国際産業連関表(2005年)より筆者計算。

(注)輸出額=100に基準化すると,国内コンテント(財別)の合計+海外コンテント(財別あるいは国別)の合計+その他世界からの輸入=100の関係が成立する。海外コンテントは内生国(アジア表では表7abの下段で示された10カ国)で発生した付加価値の合計であり,海外コンテント(財別)の合計と海外コンテント(国別)の合計は等しい。

表7bをみると,その他ハイテク財のVSシェアも半導体と類似した傾向を示している。ただし,タイ,マレーシアのハイテク財の国内コンテントは,23.4パーセント,21.6パーセントと比較的高く,中国,韓国との差は小さい。しかしながら,ハイテク財以外の国内コンテントが低いため,海外コンテントへの依存度は高くなっている。

表7b その他ハイテク財のVSシェアの分解(2005年)

(出所)アジア国際産業連関表(2005年)より筆者計算。

(注)輸出額=100に基準化すると,国内コンテント(財別)の合計+海外コンテント(財別あるいは国別)の合計+その他世界からの輸入=100の関係が成立する。海外コンテントは内生国(アジア表では表7abの下段で示された10カ国)で発生した付加価値の合計であり,海外コンテント(財別)の合計と海外コンテント(国別)の合計は等しい。

以上のように,海外コンテントの構成比率をみると,日本を先頭に北東アジア諸国は域内諸国に対して中間財を供給する役割を強めている。他方,東南アジア諸国は,一部の国で周辺国に対する中間財供給が顕著になったが,中間財の対外依存度は依然として高いままである。次節では,生産ネットワークにおける各国の位置づけを探るために,国別のVSシェアに加えてVS1シェアの変化をみてみよう。両指標によって,川下から川上産業に向けて進む雁行型発展モデルの検証を行うこともできる。

3. 国別VSシェア,VS1シェアの変化

VSシェア,VS1シェアと産業発展の関係に関しては,雁行形態論を念頭に以下のように考えることができる。最初にFDI誘致によって工業化が開始されると,裾野産業が未発達であるため,輸入中間財が増加してVSシェアが上昇する。しかし部品・中間財の輸入代替が進み,裾野産業が発達すると,VSシェアは低下していくと予想される。ただし,表6で示したように,1990年代以降の東アジアでは貿易自由化や輸送・通信費用の急激な低下によって工程間分業が進展し,VSシェアは増加する傾向にある(注13)。このように裾野産業の発展を促進する産業集積メカニズムが働く一方で,生産拠点の分散化を押し進める工程間分業が進むので,VSシェアの趨勢は生産拠点の集積と分散のメリットのどちらが大きいかに依存する(注14)。しかし,同じ時点で各国のVSシェアを比較すると,産業基盤が整備された国ほどVSシェアは低くなる傾向をもつため,上述の産業発展とVSシェアの非線型な関係は保持されるであろう。

他方VS1シェアは,輸出で発生する付加価値のうち,中間財として輸出された後に輸出相手国で加工されて,(最終財あるいは中間財として)第三国あるいは自国に再輸出される割合を示している(VS1シェアの計算方法については付論3を参照)。多くの途上国は,当初農産物,天然資源など一次産品輸出国として生産ネットワークに参入するためVS1は高い値をとるが,製造業の発達とともに一次産品輸出のウェイトは低下していく。他方,製造業の発達に伴って,当初輸入に依存していた部品・中間財が,国際市場で競争力を高めれば,VS1は再び上昇すると予想される(注15)

図5a~5cは,1995年,2011年OECD国際産業連関表(REV3)を使って計算した国別VSシェア,VS1シェアを,それぞれ一次産品,製造業,サービスへと分割した値を示している。一次産品について示した図5aによると,1995年時点では日本,中国,インドネシアの一次産品のVSシェアは低く,韓国との間に大きな違いがあった。また,インドネシアの一次産品のVS1シェアは突出して高く,マレーシアがそれに続いている。反対に韓国,日本のVS1シェアはほぼゼロであった。2011年には,東アジアにおける生産ネットワークの緊密化を反映して,各国のVSシェアは増大した。VS1シェアは東南アジア諸国で増大しており,なかでもインドネシアのVS1シェアは16パーセントを越え,一次産品輸出国としての位置づけをより一層強めている。

図5 VSシェア,VS1シェアの変化(1995年,2011年)

(出所)OECD国際産業連関表(1995年,2011年)より筆者計算

(注)各表において矢印の始点は1995年,終点は2011年を表す。

製造業ではインドネシアと日本の位置づけが逆転して,1995年当時でも日本のVS1シェアは突出して高い(図5b)。これは,日本が部品・中間財の輸出国として中心的な役割を果たしていたことを示唆する。また韓国とマレーシア,中国とタイを比較すると,どちらの組み合わせでも前者のVSシェアは後者よりも低く,反対にVS1シェアは高い。つまり,韓国,中国では,マレーシア,タイと比較して,部品・中間財の輸入代替が進むとともに輸出国としての位置づけを強めていた(注16)

2011年になると,製造業のVSシェア,VS1シェアがともに増大している。特にVSシェアはインドネシアを除くすべての国で増加しており,1995~2011年の期間に東アジアで製造業の工程間分業が進展したことを示唆する。しかし,各国の相対的な位置づけは変わらず,例えば,韓国,中国のVSシェアはマレーシア,タイよりも低いままである。他方,VS1シェアではより明確なトレンドの変化がみられる。製造業では韓国,中国のVS1シェアが増加し,マレーシア,タイとの差が拡大した。特にマレーシアではVS1シェアが減少したため,韓国との差が4パーセント近くになった(注17)

サービスは,その多くが他産業に投入されて付加価値が間接的に輸出されるために,他産業,特に製造業と構造が類似している(図5c)。例えば,1995年の韓国とマレーシア,中国とタイの関係は中国のVS1シェアがタイのVS1シェアを下回っている以外は,製造業と類似した構造になっている。2011年には,マレーシアを含むすべての国でVS1シェアが微増あるいは増大している。

以上のように,北東アジア諸国(韓国,中国)は,工程間分業の進展によって部品・中間財の輸入依存度を高める一方で,同財の輸出国としての位置づけを強めていった。東南アジア諸国(マレーシア,タイ)では,部品・中間財の対外依存度は依然として高いものの,部品・中間財の輸出国としての位置づけは弱く,川下から川上産業へと向かう雁行形態型の構造変化や高度化は明確にはみられない(注18)

おわりに

本稿は持続的な経済成長にとって必要な輸出構造の高度化を取り上げ,北東アジア諸国(韓国,中国,日本)と東南アジア諸国(マレーシア,タイ,インドネシア)の比較を行った。またEXPY/PRODY指標の分解,ハイテク財の付加価値ベースの輸出比率などのオリジナルな分析手法を試みながら,輸出構造だけでなく,その背後にある国内の産業連関や輸入構造も考慮に入れた。以下では,6カ国の中でも中国,韓国,マレーシア,タイの4カ国を中心に分析結果をまとめよう。

一国の輸出構造の高度さをあらわすEXPYを時系列(1990~2015年)で分析することにより,中国・韓国の北東アジア2カ国とマレーシア・タイの東南アジア2カ国では,2000年以降,輸出構造の高度化に明確な差があることが明らかになった。韓国の輸出構造は2000年以降高度化して日本に近づく一方で,マレーシアの輸出構造の高度化は進んでいない。中国の輸出構造は順調に高度化してマレーシアを追い越す一方で,タイの輸出構造の高度化は緩やかなものにとどまった。

さらに,生産段階別EXPYを用いた分析によって,北東アジアと東南アジアの輸出構造の高度化について,いくつかの点が明らかになった。まず,両地域とも同一の生産ステージ内での輸出構造の高度化は進んでいることが分かった。一方で,生産ステージ間の高度化は北東アジア2カ国と東南アジア2カ国で大きな差があることが分かった。2000年以降,中国については生産ステージ間の高度化が大幅に進み,韓国についても緩やかに進んでいる一方,タイについては生産ステージ間の高度化がほぼゼロで,マレーシアについては生産ステージ間で大幅な構造の「退化」が起こっていた。

EXPYの変化への寄与度をより詳しくみてみると,中国や韓国については,消費財から部品や資本財への生産ステージ間の高度化が進んでおり,一方で,マレーシアやタイでは部品や資本財のシェアが減る一方で,加工品のシェアが目立って増えていた。加工品には石油化学製品やパームオイルなどが含まれるため,特にマレーシアの場合は,資源関連産業がシェアを伸ばしたことが大きく影響していると思われる。

中国や韓国の輸出構造の高度化は,いわゆる雁行形態論で想定される産業構造の高度化に沿ったものであると言える。輸出の中心が消費財から部品や資本財へ「後方連関」をたどるようにシフトすることは,雁行形態論の想定そのものである。一方で,マレーシアやタイでは同様の産業構造の高度化は進み方が遅く,逆に一次産品産業からその加工品への「前方連関」をたどる産業の拡大が,高度化を阻害しているようにみえる。

こうした分析からいえるのは,中国は韓国と類似の輸出構造の高度化を経験しており,中所得国の罠に陥らない可能性がある一方,マレーシアとタイの2カ国は加工品産業の隆盛が足を引っ張るかたちで産業高度化が遅れ,少なくとも中所得国からの卒業に時間がかかる可能性があるということである。

続いて,国際産業連関表を使って付加価値ベースの輸出比率を計算した。中国の財別輸出比率と付加価値ベースの輸出比率を比較すると,ハイテク財を中心に両者の間に乖離がみられた。同様に,マレーシア,タイでは,ハイテク財の輸出比率は高いが,付加価値ベースの輸出比率はそれを大きく下回った。このような傾向は,外資主導でハイテク財産業が急速に発展した国々で共通してみられる現象である。

財別の輸出比率と付加価値ベースの輸出比率の乖離は,輸入投入財を海外に依存するために,付加価値が海外に漏出したことを示唆する。海外に漏出した付加価値(=海外コンテント)の割合を示すVSシェアを比較すると,ハイテク財のVSシェアが最も高く,マレーシア,タイでは50パーセントを上回った。またハイテク財以外の財においても,東南アジア諸国のVSシェアは北東アジア諸国を上回った。

半導体・集積回路などハイテク財のVSシェアを財別に分解すると,ハイテク財の海外コンテントが高く,(ハイテク財を生産するために)多くのハイテク部品・中間財を海外に依存していたことが明らかになった。他方VSシェアを国別に分解すると,東南アジア諸国では,日本を中心に北東アジア諸国から投入される付加価値コンテントのシェアが高い。

国別VSシェア,VS1シェアの二時点間(1995年,2011年)の変化をみると,北東アジア諸国が部品・中間財の輸出国としての位置づけを強めつつある一方で,東南アジア諸国ではそのような構造変化は明確ではなく,反対に一部の国では一次産品供給国としての役割を強めた。

以上のように,輸出統計と国際産業連関表を使った分析は,分析の手法や対象となる期間は異なるものの,北東アジアと東南アジア諸国の貿易構造の高度化に関して整合的な見方を示した。両地域とも,生産ステージ内での輸出構造の高度化は進み,洗練された財やハイテク財の輸出比率が高まっていることが明らかになった。しかし,北東アジアでは裾野産業が発達し,雁行型の産業発展に従って川下(消費財)から川上(部品・中間財,資本財)産業へ向けて輸出構造が高度化した。他方,東南アジアではそのような構造変化は明確にみられず,反対に一部の国では資源関連産業の輸出伸長によって構造の退化が起こった。

北東アジアと東南アジアでこうした違いが生まれる要因について,産業連関論の視点と合わせて考えると,以下の二つの可能性がある。第1に,北東アジアでは自国資本が中心的な役割を占めるのに対して,東南アジアでは外資によって製造業の発展が主導されている点である(また中国は,当初外資主導で発展したが,次第に自国資本のウェイトが高まっている)。外資主導で工業化が進んだ国では,自国資本が主体の国と比較して,国内企業の技術蓄積が十分に進まず外資への技術依存が継続するとともに,国内の部品・中間財産業とのリンケージは弱くなりがちである。その背景として,多国籍企業は高度なエンジニアリングや設計,R&Dを投資先の途上国ではなく先進国で行うため,途上国における技術水準や技術開発能力の向上は限定的になる恐れがある[Lall 2000]。また自国のR&Dを通じて先進国の技術を模倣するケース(北東アジア型)と海外直接投資によって技術を導入するケース(東南アジア型)を比較すると,海外直接投資による技術導入では,自国の技術力が十分に向上せず,外資に依存し続ける必要があるのに対して,自国でR&Dを行う場合には,技術が累積的に国内に蓄積されて先進国にキャッチアップしていくことが理論的に示された[Todo 2005戸堂 2015]。これらの指摘を敷衍すれば,自国企業の技術習得能力が低いことが,東南アジア諸国の高い外資依存度の背後にある根本的な原因であり,さらに外資依存度が高いこと自体が自国企業の技術習得機会を失わせていると考えられる。

もう一点は,「資源の呪い(resource curse)」の議論である。北東アジア諸国は人口当たりでみた天然資源の賦存は高くなく,また急速な工業化によって,経済発展の初期の段階で一次産品輸入国となっている。一方で,東南アジアは長期にわたって一次産品の純輸出国であった。こうした天然資源の豊かさは,その価格変動の大きさや,製造業をクラウディングアウトすることから経済発展に必ずしも寄与しないことがフランケルによって指摘されている[Frankel 2010]。実際にマレーシアでは,2000年代の資源ブームにより,地場企業の投資が製造業から資源関連産業にシフトしているのがみられた[Kumagai 2018]。

また,本論でも明らかになった中国における急速な輸出構造高度化の影響も見過ごせない。中国の急速な経済成長や輸出構造の高度化は,一方で国際市場における資源価格に影響を与えるとともに,他方で東南アジア諸国の工業製品の輸出競争力にも影響を与えている[丸川 2018]。中国という巨大な工業国の出現が東南アジア諸国の輸出構造に与えた影響は無視できないであろう。

付論1. 付加価値(国内コンテント)ベースの輸出額

\(s\) 国 \(i\) 財の付加価値ベースの輸出額は下式によって計算される。

  
\[DC_i^s=v_i^s\sum_{j=1}^nB_{ij}^{ss}e_{j}^{s*}\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad\quad\ldots\ldots(1a)\]

ここで,\(v_i^s\)は \(s\) 国 \(i\) 部門の付加価値率(=付加価値額/生産額),\(n\) は国際産業連関表における各国の部門数を示す。\(B_{ij}^{ss}\)はレオンチェフ逆行列の対角行列の各セルであり,\(s\) 国 \(j\) 部門の生産が1単位増加した時に\(s\) 国 \(i\) 部門の生産が何単位増加するかを示している。\(e_j^{s*}\)は \(s\) 国 \(j\) 部門の輸出額(=中間財+最終財輸出額)を表しており,本論ではこれを外生値として扱い,それによって誘発される各国,各部門における付加価値を計算する。なお,財別の輸出比率および付加価値ベースの輸出比率は,各国における財別の輸出額,付加価値ベースの輸出額の部門別シェアを計算したものである。

付論2. 財別VSシェアの分解

\(s\) 国 \(j\) 部門のVS(垂直分業)シェアは,下式によって計算される。

  
\[VS_j^sshare=100X\sum_{r\neq s}^G\sum_{i=1}^{n}v_i^rB_{ij}^{rs}\qquad\qquad\quad\ldots\ldots(2a)\]

ここで,\(G\) は国際産業連関表の内生国の数,\(v_i^r\) は \(r\) 国 \(i\) 部門の付加価値率である。なおレオンチェフ逆行列の非対角行列である \(B_{ij}^{rs}\) は,\(s\) 国 \(j\) 部門の生産が1単位増加した時に \(r\) 国 \(i\) 部門の生産が何単位増加するかを示す。そのため(2a)式は,\(s\) 国 \(j\) 部門の生産が1単位増加した時に自国以外の内生国で発生する付加価値額の割合(パーセント)を表している。これは,国際産業連関表が世界中のすべての国,地域を内生国として含む場合には,\(s\) 国 \(j\) 部門の財が1単位輸出された時に海外に漏出する付加価値の割合と同値である。しかしアジア国際産業連関表の場合には,内生国が10か国に過ぎないため,外生値であるその他世界からの輸入を加えて,海外コンテントの総計を計算した(表7下段参照)。

VSシェアは0から100までの値をとり,値が大きいほど,自国以外の内生国で発生する付加価値の割合が高いことを示す。なおVSシェア(内生国)は,下記のように付加価値が発生する国別,財別に分解することができる。

(1)VSシェアの国別(\(r\) 国)分解

  
\[VS_j^{rs}share=100X\sum_{i=1}^n v_i^rB_{ij}^{rs}.\qquad\qquad\qquad\quad\ldots\ldots(3a)\]

(2)VSシェアの財別(\(i\) 財)分解

  
\[VS_{ij}^{s}share=100X\sum_{r\neq s}^G v_i^rB_{ij}^{rs}.\qquad\qquad\qquad\quad\ldots\ldots(4a)\]

付論3. 国別VSシェア,国別VS1シェア

Hummels, Ishi, and Yi[2001]によって定義されたVS,VS1をOECD国際産業連関表に適用すると,国別(\(s\) 国)VSシェア,VS1シェアは以下のように計算できる。

  
\[VS^s share=100X\sum_{r\neq s}^G v^rB^{rs}e^{s*}/ue^{s*}\qquad\qquad\ldots\ldots(5a)\]
  
\[VS1^s share=100X v^s\sum_{r\neq s}^G B^{sr}e^{r*}/ue^{s*}\qquad\qquad\ldots\ldots(6a)\]

ここで,\(v^r\) は \(r\) 国における付加価値ベクトル(1行n列),\(B^{rs}\)はレオンチェフ逆行列の非対角行列(n行n列:\(s\) 国の各部門の生産が1単位増加した時に \(r\) 国の各部門の生産が何単位増加するかを表す),\(e^{s*}\) は \(s\) 国の輸出ベクトル(n行1列),\(u\) はすべてのセルが1の行ベクトル(1行n列)である。そのため,(5a)式は \(s\) 国の輸出で発生する付加価値のうち,海外で発生する付加価値の割合を示している。他方((6a)式は,輸出のうち,中間財として輸出された後に加工されて,(最終財あるいは中間財として)第三国あるいは自国に再輸出される付加価値の割合を示している。

(5a)式(6a)式は,中間財取引を中心に,いずれも国境を2回以上超える取引を表しており,東アジアのように工程間分業が進んだ地域での各国の位置づけを理解するうえで適した指標である。なお本論では,(5a)式(6a)式に加えて,同式の分子で計算される付加価値を一次産品,製造業,サービスの3部門に分割し,\(VS^sshare\),\(VSI^s share\)に対する各部門の貢献度を計算した。

 [謝辞]

本研究の一部はJSPS科研費JP17K03749の助成を受けたものである。

(熊谷・アジア経済研究所開発研究センター経済地理研究グループ長,黒岩・新潟県立大学国際経済学部教授,2019年3月11日受領,2020年1月10日レフェリーの審査を経て掲載決定)

(注1)  日本についても,1人当たり実質GNPの1960年代の伸び率は9.87パーセントとなっており,中国・韓国と同様の経路をたどっていることが分かる。

(注2)  カプリンスキーとパウリーノはラル[Lall 2000]の分類に基づく各品目について,単価のトレンドが負である品目の比率を分析した[Kaplinsky and Paulino 2005]。その結果,ハイテク財ほど単価が低下する財の割合が低く,また,各財のカテゴリーにおいても高所得国が輸出する財ほど単価が低下する財の比率が低いことが明らかになった。

(注3)  ハウスマン等も指摘しているとおり,最大品目はサンプル国で最も所得の高いルクセンブルクが多く輸出している品目に影響されている。

(注4)  韓国の場合,世界銀行の基準では1990年に高所得国となっている。ただし,韓国の1人当たり国民所得はその後も世界銀行による高所得国の下限に近い値で推移し,明確に高所得国入りしたのは2000年代に入ってからであると言える。

(注5)  以下,日本,インドネシアについては,すべての図表で表示するが,本文中では必要に応じて言及するのみとする。

(注6)  経済産業研究所(RIETI)が定義している生産段階別の貿易品目の分類。詳しくはRIETI-TIDのウェブページを参照(https://www.rieti.go.jp/jp/projects/rieti-tid/)。

(注7)  輸出額と同額の付加価値が国内,海外のいずれかで発生するため,輸出額=国内コンテント+海外コンテントの関係が成立する(さらに,国内コンテントおよび海外コンテントは,合計9のコンポーネントに分割可能である[Koopman, Wang, and Wei 2014]。国内生産要素による付加価値創出への貢献を示す国内コンテントを用いることによって,貿易統計を使用した際に発生する二重計算を避けることができる。クープマンらはそのような視点から,輸出データではなく,輸出に体化された国内付加価値(GDP in exports)を使って顕示的比較優位(RCA)を計測した[Koopman, Wang, and Wei 2014]。本論のアプローチもそれと類似しているが,輸出額や海外コンテントの関係がより明確な国内コンテントを使って,付加価値ベースの輸出比率を計算した。

(注8)  東アジア諸国における貿易・産業構造,技術水準の急速な変化を考えると,最新の国際産業連関表を使うことが望ましい。本稿執筆時に,経済協力開発機構(OECD)が1995~2011年表(REV3)を公表しているが,これらの国際産業連関表は部門数が少なく(34部門,62か国),ハイテク財の分類に対応してない。他方,アジア国際産業連関表は部門数が多く(2005年表は76部門,10カ国)半導体などハイテク財部門に配慮して部門が構成されている。したがって本論におけるハイテク財に関する分析では,1990年および2005年のアジア国際産業連関表を用いる。一方,国別VSシェア,VS1シェアの計算には,部門分類についての制約がないため,より新しい時期の変化がみられる1995年,2011年OECD国際産業関表(REV3)を使用する。なお,異なる国際産業連関表を利用する場合には,部門分類や統計概念などの不突合の問題が発生するので十分な注意が必要である。

(注9)  OECDの技術水準別分類(OECD 2011)は,R&D投入量に基づいて財が分類されている。(i)ハイテク財には,航空機,医薬品,事務機器・コンピュータ,TV・通信機器,医療・精密機器(ただし,2005年表では航空機がその他輸送機械から分離できず,上位中テク財に含まれている),(ii)上位中テク財には,電気機械,自動車,(医薬品を除く)化学製品,その他輸送機械,機械機器,(iii)下位中テク財には,造船業,ゴム・プラスティック,石油化学,非鉄鉱物,基礎金属・金属製品,(iv)ローテク財には,その他製造業(リサイクルを含む),木材・紙・紙製品・パルプ・印刷・出版業,食料・飲料・タバコ,繊維・衣料・皮革・製靴,などが含まれている。

(注10)  アジア国際産業連関表の作成過程では,CIFで評価されている輸入統計から運賃・保険料を差し引きFOB価格に変換し,さらに生産者価格に変換するために,運賃・流通マージンが取り除かれる。そのため,FOBで評価される輸出統計とは評価額が一致しない。ただし本論では,輸出構造を比較するために各財の輸出構成比率を用いており,価格評価の影響は限定的と考えられる。

(注11)  ここで確認のために,技術水準別の財のカテゴリーにおいて中心的な位置を占める半導体・集積回路(ハイテク財),自動車(上位中テク財),アパレル製品(ローテク財)のVSシェア(2005年)を比較してみよう。これらの財のVSシェアは,それぞれ,マレーシア63.7パーセント,70.1パーセント,38.8パーセント,タイ83.0パーセント,56.1パーセント,26.7パーセント,韓国47.8パーセント,30.3パーセント,24.6パーセント,中国42.4パーセント,24.0パーセント,18.2パーセントである。これらの数字は表6の結果にほぼ対応しているが,マレーシアの自動車,タイの半導体のようにVSシェアが極端に大きい産業が含まれている。

(注12)  ハイテク財の高いVSシェアによって,ハイテク財の輸出比率と付加価値ベースの輸出比率に乖離が生じたことは,同時に洗練度の高い財において輸出比率と付加価値ベースの輸出比率に乖離が生じる可能性を示唆する(技術水準別に各財のEXPY(式(3)参照)を計算すると,ハイテク財2万7426米ドル,上位中テク財2万4887米ドル,下位中テク財1万9293米ドル,ローテク財1万7706米ドルであり,財の技術水準と洗練度には相関関係がみられる)。その場合,図3で示された韓国とマレーシアあるいは中国とタイの間の輸出財の洗練度の差は貿易データで示された以上に大きいかもしれない。

(注13)  東アジアの代表的な経済発展モデルである「雁行形態論」によると,川下の消費財産業に続いて川上の中間財,資本財産業でも,輸入→国内生産(輸入代替)→輸出の順序に従って産業発展を遂げる[Akamatsu 1962]。ただし,雁行形態論では,国内生産の結果,輸入依存度が低下すると想定されているが,1990年代以降の東アジアでは,生産ネットワークが拡大したため,部品・中間財の国際分業が進み,輸入依存度が高まった。

(注14)  ここで集積のメリットとは,組立業者と部品サプライヤーの近接性によって得られる取引費用や輸送費用の節約であり,他方,分散のメリットは,途上国への生産拠点移転による労働コストの節約である。1980年代後半から起きた情報通信革命,貿易自由化,経済統合によって輸送・通信費用が下落して,後者のメリットが相対的に大きくなった。その結果,東アジアにおいても工程間分業が進展し,生産拠点の分散が優勢となった。

(注15)  Kuroiwa and Umezaki[2019]はVSシェア,VS1シェアをグローバル・バリューチェーン(GVC)への参入度を示す指標として使い,GVC参入の決定要因に関する計量分析を行った。その結果,GVC参入に影響を与える人口,市場への近接性,関税率,ガバナンス,ロジスティクス,単位労働費用などの要因をコントロールしたうえで,1人当たりGDPとVSシェア,VS1シェアの間には非線型の関係があり,経済発展とともにVSシェアは逆U字型,VS1シェアはU字型の経路を辿ることを実証し,本論の仮説と整合的な結果を導いた。

(注16)  図5bをみると,インドネシアのVSシェアは,日本と同様に低い。しかし,これはインドネシアの製造業が国際的な生産ネットワークに十分に参入していないために起きた現象であり,裾野産業が発達した日本とは原因が異なる。

(注17)  2011年におけるインドネシアのVSシェアは日本よりも低くなっている。低いVSシェアの原因として考えられるのは,インドネシアの輸出構造である。インドネシアの製造業ではローテク財の輸出比率が高く(表5参照),同時にローテク財のVSシェアは低い(表6参照)。また,同じ技術水準のVSシェアを比較した場合,他国(例えばマレーシア,タイ)と比較して,インドネシアのVSシェアは相対的に低くなっている。

(注18)  本論では,生産ネットワークにおける各国の位置づけを論じるためにVSシェア,VS1シェアの2つの指標を使ってきた。しかし,サプライチェーンの長さや上流・下流など,生産ネットワークにおける各国の位置づけを直接的に示す指標が開発されている。それらには,Dietzenbacher, Romero, and Bosma[2005]による平均波及世代数(APL),Fally[2011]による生産段階数の計測,Antràs et al.[2012]による上流度指標,Miller and Temurshoev[2015]による下流度指標,Wang et al.[2017]による(生産波及経路別に分割された)GVCの長さの指標が含まれる。他方,VSシェア,VS1シェアは,それらの指標とは異なり,生産ネットワークにおける各国の位置づけを直接的に示すものではない。しかしVSシェア,VS1シェアは,国境を越えた後方連関効果と前方連関効果の強さを示すために,生産ネットワークにおける下流および上流のポジションと密接な関係がある。事実,猪俣は,東アジア諸国の平均波及世代数を計測し,1985~2005年の期間に韓国,中国が東アジアの生産ネット―ワークの上流方向に移動したのに対して,マレーシアの位置づけはほとんど変わらず,タイは下流に移動したことを明らかにした[Inomata 2014, Figur 3.11; Inomata 2017]。これは,(分析の対象年や手法が異なるため完全には一致しないが),貿易構造高度化に関する本論の分析結果と符合する。

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