2024 年 23 巻 p. 21-60
宗教民俗学者の堀一郎は、M. エリアーデの“Shamanism”を翻訳し、その核心は「ecstasy=脱魂」にあるとみた。以来、日本ではこの「脱魂論」を受け継いだ「トランスエクスタシーのシャーマニズム」論が一方では主流を占めてきた。しかし、他方にはI.M. ルイスなどの‘Ecstatic Religion’に基づく「トランス憑霊のシャーマニズム」論も存在してきた。そこで、エリアーデが説く「トランスエクスタシーのシャーマニズム」とは何かを、シベリアや欧米のシャーマニズム研究史を遡りながら、その位置付けを行ってみた。また、エリアーデが論拠としたギリシャ神話を手掛かりに、シベリアや中国雲南の資料から、どのように「トランスエクスタシーのシャーマニズム」を論証したのかを求めてみた。特に、エリアーデはウノ・ハルヴァの「アルタイのシャーマニズム」やJ.F. ロックによる雲南のナシの喪葬儀礼の研究資料を手掛かりにエクスタティックな世界を求めている。堀一郎が説く「ecstasy=脱魂」とエリアーデが説く「トランスエクスタシーのシャーマニズム」との論点の違いを人類学的視点から探ってみた。