海洋理工学会誌
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原著
数値実験による北太平洋表層水の生物による二酸化炭素吸収能の評価
沓掛 洋志中田 喜三郎青木 繫明岸 道郎久保田 雅久石田 明生
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1995 年 1 巻 2 号 p. 26-48

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抄録

大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収する能力を評価する事を目的として鉛直一次元の 移流・拡散海洋表層炭素循環モデルを構築した。モデルの要素は植物プランクトン,動物プラン クトン,バクテリア,懸濁態・溶存態の非生物態有機物(炭素,窒素,燐),栄養塩(PO,. NO,,NIL),全炭酸,アルカリ度,溶存酸素である。モデルは一定の速度の上昇流による鉛直 移流と鉛直拡散を考慮している。植物プランクトンについては光合成,枯死,細胞外分泌,呼 吸,沈降の過程を考慮した。動物プランクトンについては捕食,呼吸,死亡過程を考慮し,バク テリアについては非生物態有機物の摂取,枯死,呼吸の過程を考慮した。非生物態有機物に対し ては分解,沈降を考慮した。更に硝化過程及び二酸化炭素と溶存酸素の大気交換を考慮した。 構築したモデルを北太平洋(北緯42・東経175.地点)に適用し.NOPACCS(NorthwestPacific CarbonCyclestudy)の観測データと比較した。計算結果は,溶存酸素を除いて観測結果を再現し た。炭素の収支の推定結果によると基礎生産に使用される無機炭素の大部分は表層内での再循環 と深層からの鉛直混合による供給である。大気から供給される量は基礎生産に利用される量の数 %である。 感度解析の結果では当海域において鉛直流速は10^-6 cm^2 s^-1以下であり,鉛直拡散係数がほぼ1 cm^2 s^-1のケースが観測値を再現する事を示した。生物パラメータとbiologicalpumpの関係につい ては動物プランクトン,及びバクテリアの死亡速度の影響は殆ど無く,炭酸カルシウムの生成速 度の影響が大きい事を示した。更に現状の一次元モデルの課題点と限界について検討した。

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