The Journal of Antibiotics, Series B
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各種抗生物剤の上顎洞吸収に関する実験的研究 そのII
Bacitracin, Penicillinの家兎上顎洞吸収に及ぼす高温並びに諸併用物質 (Urethane, 抱水クロラール, 牛胆汁) の影響について
高野 修
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1955 年 8 巻 9 号 p. 426-430

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抄録

慢性副鼻腔炎の局所化学療法は, Penicillinから各種の新抗生物剤の応用へと発展しつつある現況にある。そこで私は第1報において, 健康家兎の上顎洞にBacitracin, Erythromycin, Leucomycin, Penicillinを注入し, 時間的に血液を採取して血清から鳥居氏溶連菌重層法によつて血中濃度を測定し, これらの抗生物剤が上顎洞から吸収可能であるかどうかを検討すると共に, 腹腔内及び皮下注入時と比較観察し, 次の結果を得た。
これらの抗生物剤は, いずれも家兎上顎洞から吸収され, 吸収面積が比較にならないほど大きく, 且つ血管, 淋巴管に富んでいる腹腔内吸収に劣るとしても, Bacitracin, Leucomycinの場合のように, 皮下吸収よりも良好な結果を示す場合も認められた。
以上のように, 上顎洞吸収が確認されたのであるが, 義であると思われるので, 今回は更に吸収促進因子について検討することとした。
諸臓器からの各種薬剤吸収促進物質についての研究は, 古くから多数の学者によつておこなわれているが, 大腸内における諸種薬剤吸収促進物質の検討に関しては本学薬理学教室において多年に亘り, 灌腸に関する一連の研究として種々の業績が発表されている。すなわち, カルシウム剤の吸収について吉元 (44) は, 塩化カルシウムと胆汁または胆汁酸を併用灌腸すると, 大腸から多量のカルシウムが吸収されて, 家兎は中毒症状を発現すると述べ, 加藤 (45) はカルシウムの大腸内吸収は塩化カルシウムと葡萄糖との併用灌腸によつて促進されることを確認した。また, 近藤 (46) は, 抱水クロラール, Urethane, Phenobarbital, 硫酸マグネシウムは, それぞれ塩化カルシウムの大腸内吸収を促進するが, 抱水クロラールが最も顕著であるといい, 一本 (47) は有機 (及び無機) カルシウムの大腸内吸収実験をおこない, 胆汁併用灌腸によつて著るしく吸収が促進されるものは, 塩化カルシウムのみであると結論した。
次に, アミノ酸の吸収について見須 (48) はGlycocoll並にTaurinは単独灌腸では吸収されないが, 単糖類, 2糖類, 塩化カルシウム, 麻酔剤(抱水クロラール, Urethane, Phenobarbital) との併用により吸収されると述べ, 同じく見須等 (49) はPolytaminの大腸内吸収は, 塩化カルシウムまたは牛胆汁の併用灌腸によつておこなわれることを確認した。また, 葡萄糖の吸収について見須 (50) は, アミノ酸, カルシウム剤, 牛胆汁, 麻酔剤の中の特定の物質2種以上を同時に併用灌腸すると, Glucoseの大腸内吸収が著明に促進されると報告した。パラアミノサリチル酸の吸収について関谷 (51) は, 牛ならびに豚胆汁併用灌腸によつて最も収吸が促進されることを実証した。
Histamineの大腸内吸収については, 系統的な研究があり, 望月(52)はHistamineは単独灌腸では殆んど吸収されないが, 抱水クロラールまたはUrethaneと併用すると, 血中Histamine量は激増し, 家兎はショック症状を起して斃死することを認め, 松元 (53) は家兎胆汁, Taurochol-酸, Chol-酸, 尿素, チオ尿素, Hyren, Emulgen106の併用灌腸によつてHistamineは吸収されると発表した。Sulfa剤の吸収に関して土持 (54) は, 尿素, 抱水クロラール, 牛胆汁, Urethaneの併用灌腸によつて吸収が促進され, 促進作用の順は概ね上記の順であると報告している。
Penicillinの吸収に就て八家 (55) は, Sulfa剤を混注すると病変部への移行は少いが, 血中有効濃度を高く, 且つ長時間持続させることができ, 局所に混注すると血中濃度は低いが, 角尾等 (56) は, Penicillinの家兎大腸内吸収促進物質を検索し, Urethaneが最も吸収を促進し, 血中濃度を高く, 且つ長時間持続させ得ることを確認した。
諸種薬剤の大腸内吸収に及ぼす室温の影響に関する実験もおこなわれ, 加藤 (57) は塩化カルシウムの大腸内吸収は最も室温によ1つて影響され易く, 25.0℃ 以上では血清カルシウムは最高16.57mg/dlの増加を来たし, サリチル酸カルシウムも14.38mg/dlの増加を来たしたと述べた。また近藤 (46) は, 室温18.0~28.0℃ において, Histamineは殆んど吸収されないが, 30.0℃ 以上になると吸収されるといい, 森田 (58) も31.0~32.5℃ の室温で塩酸-Histamineが吸収されると発表した。
ここにおいて私は, 上顎洞における吸収状態が室温の変化によつてどのように影響されるかを見るため, Bacitracin, Penicillinについて夏季に於ける高温時の実験をおこなつた。また, 角尾等が検討したPenicillinの大腸内吸収促進物質が上顎洞においてどのような態度を示すかを観察するため, PenicillinとUrethane, 抱水クロラールならびに牛胆汁の上顎洞併用注入実験を試み, 興味ある結果を得たので報告する。

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