The Japanese Journal of Antibiotics
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化膿性腹膜炎に対するCefotetanとCefmetazoleの二重盲検法による比較試験
谷村 弘日笠 頼則小林 展章加藤 仁司関谷 司佐藤 友信斎藤 徹吉田 圭介黄 丈芳端野 博康中村 正則出口 浩一
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1983 年 36 巻 2 号 p. 369-390

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抄録

急性化膿性腹膜炎は, 腹膜からのエンドトキシンの吸収, 体液の大量移動, 循環動態の変化, 消化管の機能低下などが加わり, Penicillinの臨床使用以来化学療法が急速に進歩し, 死亡率が著しく低下したとはいえ, いまなお生命の危険度が高い疾患である1)。
腹膜炎の主たる死因は, 消化管由来の好気性グラム陰性桿菌並びに嫌気性菌による敗血症とそれに伴うエンドトキシン・ショックであり, その治療の原則は適切な抗生物質の併用による徹底的な手術的腹腔内清掃 (Debridement) であると言える。その際の抗生物質の選択基準として上述の消化管由来の各種細菌に対して強い抗菌力を発揮することのほかに, 腹膜炎が重症であればあるほど腎障害を伴うことが多いことから, 腎毒性の少ない薬剤であることが望ましい2)。好気性グラム陰性菌に対する抗菌力が強く, 又Bactmidesを含む嫌気性菌にも有効で, しかも毒性の少ないCephem系抗生物質が最近次々と開発されてきたことは, 腹膜炎の治療にとつて非常に喜ばしい状況であるが3, 4), 一方では臨床家にとつて薬剤の選択に困惑させられる因にもなっている。それ故, 外科領域における感染症においても新しい抗生物質の開発に伴い, その臨床評価が同系薬剤間での比較試験成績にて論じられるようになつてきた5~7)。腹膜炎の化学療法においても比較試験による臨床評価法を実施することが望ましいと考えられるが, 腹膜炎の治療に際しては必ず外科的処置を伴うので, 比較試験の重要項目である対象疾患の均一性を得ることが極めて困難であり8), 比較試験はほとんど実施されていないのが現状であり, わが国では寡聞にして著者らの行つたCeftizoxime (CZX)とCefazolin (CEZ) の二重盲検法による比較試験の報告9)以外にはない。
最近, 山之内製薬中央研究所において開発されたCefbtetan (CTT) はFig.1に示す化学構造を持つ新しいCephamycin系抗生物質であり, β-Lactamaseに極めて安定で, 従来のCephamycin系抗生物質に比べ, グラム陰性桿菌に対する抗菌力が強く,Bacteroidesを含む嫌気性菌にも有効で, ヒトでの血中半減期が比較的長いことを特徴とする薬剤である10)。
われわれは, CTTの急性化膿性腹膜炎に対する臨床評価を行うに当り京都大学第2外科で研讃した医師を中心に活動している施設だけを協力施設とし, 手術術式の統一性, 手術操作法, 腹腔ドレーンの挿入法などできるだけ均一性を得るための配慮を施し, 対照薬剤としては, 現在繁用され, 腹膜炎に対する薬効が確立されている同じCephamycin系抗生物質の1つであるCefmetazole (CMZ) 11)を選び, 二重盲検法による臨床比較試験を実施した。

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