未知の感染症と対峙しなければならない危機的状況下では,原因微生物に対する免疫獲得状況を個人または集団として正確かつ迅速に把握することが求められる。COVID-19パンデミックでの抗体評価は,従来の方法と同様に,静脈より採血した血液が測定試料として用いられてきたが,静脈採血は,採血技術保有者,採血場所,採血容器が必要となる。また,採血を行うためには,採血者と被採血者との物理的接触機会と,一定の採血時間の確保が必要なため,パンデミックでは感染リスクを伴う作業となる。これらは,大規模に抗体を評価するうえでの障壁となり,被評価者を限定してしまう。今回我々は,全血でも評価可能であり,バイオセーフティーレベルを落として扱えるシュードタイプウイルスを用いた中和抗体評価法(CRNT法:chemiluminescent reduction neutralizing test)を利用して,指先微量全血から中和活性評価までの一連のシステム構築に取り組み,安価,保管・輸送の簡便性,長期間の安定性から,指先全血を濾紙に吸収させた乾燥血液を用いた評価が最適と考えた。実際に,ワクチン接種者の協力を得て,指先全血をスタンプ法により採血用濾紙に吸着させたのち,溶媒に濾紙乾燥血液を溶出させることで,中和活性を評価できることを見出し,血清での中和活性値と高い相関性を確認した。数種類の濾紙を比較しつつ変異株に対する評価も行い,時間および温度安定性を確認するなど,採血から測定までの一連のプロセスの条件の最適化を行った。指先採血は,簡便かつ感染リスクを下げられる方法として,新興感染症で必ず課題となる免疫獲得状況を広く知るための安全な手段につながり,ワクチン接種が必要な対象者の選定や最適な接種時期の計画立案など,ワクチン予防効果不透明性の課題を克服できるとともに,今後の様々な微生物へのワクチン接種計画にも応用の可能性が開ける。
日本におけるコリスチン(オルドレブ®,以下本剤)の使用実態下における安全性及び有効性の検討を目的に,全例調査方式により使用成績調査を実施した。感染症と診断され本剤を初めて投与された患者を対象とし,観察期間は本剤投与開始日から投与中止・終了日までとした。安全性として副作用の発現状況を,有効性として調査担当医師による総合評価及び原因菌のコリスチン感受性を評価した。2015年5月25日より2022年9月20日までに815例が登録された。調査票回収症例は2017年10月31日までに登録された282例で,安全性解析対象症例は280例,有効性解析対象症例は169例であった。なお,腎毒性及び耐性菌の発現防止の観点から,クレアチニン・クリアランス値に応じた用量調節及び原因菌のコリスチン感受性検査実施を添付文書に記載しているが,安全性解析対象症例で本剤投与開始前にクレアチニン・クリアランス値が測定された262例のうち,34.4%(90/262例)の症例では本剤の添付文書に基づくクレアチニン・クリアランス値に応じた用量調節が行われておらず,また,適正菌種使用症例261例のうち,26.4%(69/261例)で原因菌のコリスチン感受性検査が行われていなかった。安全性解析対象症例における総投与日数(平均±標準偏差)は13.9±18.08日で,32.5%(91/280例)に副作用が認められた。安全性検討事項の「腎機能障害」及び「神経毒性」,「偽膜性大腸炎」に関連する副作用発現割合は,それぞれ27.1%(76/280例),2.9%(8/280例),0.4%(1/280例)であった。有効性解析対象症例169例における担当医師の総合評価による有効割合は75.1%(127/169例)であった。本調査の結果,本剤の使用実態下での安全性及び有効性に新たな問題点は認められなかった。腎毒性及び耐性菌の発現防止の観点から,本剤の添付文書及び『コリスチンの適正使用に関する指針―改訂版―』を遵守し,適正に使用することが重要であると考えられた。