1985 年 38 巻 3 号 p. 615-633
最近の抗生物質の進歩はめざましく, 強力な広範囲抗生物質の開発があいついでおり, これらのものは, 従来の抗生物質では非感受性であつた日和見感染菌などにも著明な抗菌力を有している。
反面これら強力な抗生物質の多用や過用は早晩, 感受性菌の耐性化を招きかねないであろうとの警鐘もある1, 2)。
従つて抗生物質の選択にあたつては原因菌の十分な検索が必要であろう。歯科口腔外科領域の急性感染症は常在菌叢と侵入細菌との複雑な絡み合いから起る。すなわち, 侵入細菌が優位になれば, それらが産生する菌体外毒素が組織障害を引き起し, 又, 口腔内の特定の常在菌の増殖が優位となれば, 常在菌が病原性を発現すると考えられている3, 4)。又, この領域の主要な分離菌は好気性グラム陽性菌と嫌気性菌であり, 好気性グラム陰性菌の分離頻度は極めて低いと報告されている4)。
今回, 我々は東洋醸造 (株) が開発したマクロライド系抗生物質TMS-19-Qを急性歯性感染症に試用する機会を得た。TMS-19-Q (図1) は, 16員環マクロライド系抗生物質であるKitasamycin (LM) の1成分であるLeucomycin A5 (LM A5) の3位を化学的にPropionyl化して得られた半合成抗生物質である。本剤はグラム陽性菌, 嫌気性菌, マイコプラズマ, レジオネーラ, キャンピロバクターなどに優れた抗菌力を示すことが知られており5), 現在市販されているJosamycin (JM), MF decamycin (MDM), 及びLMに比べて抗菌力が1~2管優れ, 且つ従来の16員環マクロライド系抗生物質よりも殺菌作用が強く, 耐性誘導能を有さないとされている5)。又, 従来マクロライド耐性株はすべてのマクロライド系抗生物質に交叉耐性を有したが, TMS49-Qは一部のStaphylococcus aureusや, Streptococcus pyogenes及び嫌気性菌などの耐性菌にも抗菌力を示すことが報告されている。TMS-19-Qのこれらの性質は急性歯性感染症に良好な臨床効果を期待できるものと考え, 全国11施設で治験を実施し若干の知見を得たので報告する。