抄録
加熱して殺した大腸菌浮游液を家兎の皮下に注射し, またそれを燈心に含ませて皮下に挿入し, それから局所の皮下組織, 骨髓, 脾の抽出液と血清の殺菌力を經時的に比較觀察した. なほ皮下組織と脾組織内の諸細胞の數と總體積を計測して, これ等の細胞の殺菌物質産生能を檢討した.
菌浮游液を皮下に注射して3日後に, 骨髓の殺菌力は皮下組織のものに比べてやや強く, 脾のものはなほ強く證明せられるが, 血清中には未だ殺菌力が認められない. 殺菌物質は脾では長く産生されるが, 皮下と骨髓は早くこれを失ふ. 死菌含有燈心の皮下挿入後3日には皮下組織に殺菌物質が菌液を皮下に注射した場合と同じ程度に現はれる. この時期には骨髓, 脾, 血清には未だ殺菌物質が現れない. 菌含有燈心挿入後2週間には殺菌物質は血清中に増し始め, 3週間後には骨髓にやや強く, 脾では更に強い. このとき皮下組織の殺菌物質はあまり減少せず, 脾よりも弱く, 骨髓よりやや強い, 即ち, 皮下組織に菌含有燈心挿入のときは皮下注射の場合に比べて, 皮下組織では殺菌物質が長く局所で産生され, 脾と骨髓では後れてこれが産生され, 血清の殺菌物質量はその2の場合に殆んど差がない.
皮下注射3日後の一定體積の皮下組織の線維細胞, 線組球, 組織球, 單核球, 白血球樣細胞の體積の總和と同體積の脾の細網細胞とそれに由來したものの總和との體積の比は1:5.8である. 兩組織の同體積の細胞が有する殺菌力は皮下注射後3, 5, 9日では皮下組織のものが著しく強く, 2週間後には脾のものが弱くなる. 皮下組織では菌注射後に線組球と組織球が著しく増加し, その總體積の和が皮下組織全細胞總體積の過半量を占めるので, 殺菌物質を産生するものはこれ等細胞が主であると推定せられる.