Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
スッポンの排泄孔及び陰茎の組織と神経分布
阿部 利吉
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1956 年 10 巻 3 号 p. 351-373

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抄録
スッポンの終腸の終末部は中に広い腔洞を有し, 其粘膜は所謂肛門嚢に類似の組織像を示し, 下方に向って縦走性粘膜皺襞の出現と共に狭小となって排泄孔に開く. この部は人及び哺乳動物の肛門柱帯に相当する. 余は之を終腸の肛門部と名付ける.
左右の陰茎海綿体脚は終腸肛門部と尿道の両側に深く入込む. 尿道の腹方には尿道海綿体の根部が見られ, 横断像では半月状を呈し, 白膜から出る多数の中隔の間には血管の網状形成が見られる.
陰茎海綿体は肛門部では良好な発達を示すが, 排泄孔に沿って前進すると急に劣勢となる. 然し軈て突如として排泄孔腔に向って強力に突出する. この両突起は粘膜で蔽われ尿道海綿体と共に所謂陰茎亀頭を作る. 尿道海綿体も間もなく排泄孔腔に遊離し, 表面は同一粘膜で包まれる.
陰茎海綿体特に亀頭内のものは白膜から突出する大小の絨毛を有する1つの大きな海綿腔で貫かれ, 其内面は1列性の内皮細胞で蔽われる. 亀頭粘膜は厚い重層円柱上皮とメラニン色素細胞に富む固有膜とから成る.
排泄孔の始部では縦走性粘膜皺襞が見られ, 上皮は重層円柱上皮から成るが, 終部では皺襞もなく, 上皮は非角化性の重層扁平上皮で表わされる. 固有膜内には一般に色素細胞は見られず, 筋膜は始部に見られるに過ぎない.
排泄孔腔粘膜の神経分布は筋膜所有の始部では Auerbach 氏及び Meissner 氏神経叢の弱い形成を見, 且つ知覚線維も可なり多く見られ, 之は筋膜及び固有膜内に夫々係蹄状終末及び迂曲終末として終り, 且つ非分岐性と単純な分岐性終末とに区別される. 上皮内線維は証明されない. 排泄孔の終部に近づくと, 知覚線維の分布は次第に劣勢となる.
陰茎の神経分布は甚だ興味深い. 先ず陰茎海綿体と尿道海綿体の植物神経は終腸肛門部の周囲を走る陰茎深動脈と其枝の尿道海綿体動脈に附随する植物神経束に由来する. 但し亀頭内の陰茎海綿体は其他陰茎背神経からも植物線維を受ける. 尚お屡々小神経束が絨毛の内皮細胞層に内接して走るを見る. 植物線維は何れも Stöhr 氏終網に終る.
陰茎に対する知覚線維は唯亀頭に限って発見される. 之は亀頭根部の両側に現われる両陰茎背神経に由来し, 亀頭粘膜のみならず, 陰茎海綿体の中にも進入する. 又海綿体では小神経束が甚だ屡々絨毛の内皮細胞層に内接して走り, その中の知覚線維は太さの変化に富む太い線維から成り, 特有な係蹄状走行の後, 尖鋭状に終り, 其終末の多くは非分岐性又は単純な分岐性終末として表わされる.
亀頭粘膜に進む知覚線維も特有な迂曲走行と太さの変化とを示し, 多くは非分岐性時には単純な分岐性終末として固有膜内に終る. 又稀ならず非被膜性の糸毬状終末も発見される. 上皮内線維はここでも発見されない.
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© 国際組織細胞学会
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