抄録
犬半月状神経節の神経細胞は大細胞と小細胞に分けられ, 之等は更に神経突起の数によって単極, 2極, 多極細胞に区別される.
単極細胞は神経突起の走行状態から更に単純型, 複雑型及び特殊型に分けられる. 単純型は小細胞に多く見られ, 1条の神経突起の走行は甚だ単純, 反之複雑型は概ね大細胞に見られ, 神経突起は多くの場合自己の細胞の1極に於て複雑な螺旋状走行を示す. 人半月状神経節に見られる様な細胞周囲を複雑に走行する神経突起所有の単極細胞は犬では殆んど見られない. 特殊型では神経突起の螺旋状走行途上2-3の分枝が現われ, 之等は再び神経突起に帰り種々の大さの且つ不規則な神経窓を形成する. 本型は人間以外の特定の哺乳動物の脳脊髄神経節に見られると思考される.
何の種の細胞でも大細胞からは太い神経突起, 小細胞からは細い神経突起が出るのが一般であるが, 時には例外も認められる. 単極細胞の神経突起のT状或はY状分岐による両線維の太さの差異に就ては一定の法則は見られない. 此事は2極及多極細胞に於ける両神経突起にも当てはまる. 何の種の細胞に於ても神経突起から屡々細い副側枝の発生を見る.
犬半月状神経節にも2極胞細が少量に発見される. そして私も亦2極細胞を幼若型とする古い学説に反対し度い. 2極細胞からの両突起の走行は多くは単純に行われるが (単純型), 中には螺旋走行 (複雑型) 及び単極細胞に於けると同様な走行 (特殊型) を示すものもある.
犬では多極細胞は人間に於けるよりも多く見られ, 且つ形状に於て人の場合と可なり異なるものがある. 即ち人に見られる単純性有窓型や終末板型は犬では甚だ少く, 大多数は特殊有窓型で表わされる. 之は多くの神経突起が互に吻合により多数の窓を作り, 然る後1条の線維に移行するもので, 本型は更に単純型と複雑型とに区別される. 前者では窓形成が細胞の1極に於て行われ, 其規模も小さいが, 後者では窓形成が細胞の全表面に行われ, 然る後迂曲走行する1条の軸索突起に移行する. この複雑型は人間では見られず, 特定の哺乳動物に限り発見される様である. 尚お以上何の種の多極神経細胞も神経突起の性状からして交感神経細胞に所属せず, 知覚性のものである.