Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
人舌の知覚神経支配に関する補遺的組織学的観察
中井 隆治
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1960 年 20 巻 1 号 p. 161-178

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抄録

舌背は身体中で恐らく最も知覚線維に富んでいるが, その分布及び終末構成は舌乳頭の種類によって多少趣を異にする.
糸状乳頭内には非被膜性の糸球状終末と太さの変化に富んだ終末枝から成る種々な形状の可なり複難な分岐性終末とが発見される. 茸状乳頭内でも前者に於けると同様上記2種の終末が見られるが, 糸球状終末は糸状乳頭に於けるより少量に発見される. 唯この部の上皮は非角化性であり且つ少量乍ら味蕾を所有するから, 細い線維の上皮内線維を見る外, 味蕾直下には太さの変化に富んだ終末枝から成る分岐性終末も見られ, 又このものから更に蕾内及び蕾外線維への移行も認められる.
葉状及び有廓乳頭内には糸状及び茸状乳頭に於けるよりも少量の知覚線維の進入を見, その終未には糸球状終末は極めて少く, その多くは比較的単純に構成される分岐性終末で表わされ, その終末枝は上皮下特に味蕾に関係して終る. 然し稀ならず極めて太い線維に由来する複雑に構成され広範囲に拡散する分岐性終末も発見される. 尚お之等乳頭内には極めて多くの植物線維の進入を見, 到る所にその終網の形成を見る.
舌下面では舌乳頭は見られず, 単に粘膜乳頭を見るに過ぎないから, 知覚線維は舌背に於けるよりも遙かに少い. 外側縁及び正中部には稍々大なる粘膜乳頭の存在を見, この中には少量の知覚線維が入り単純な分岐性及び糸球状終末に終るが, 小乳頭の多くのものには知覚終末は証明されない. 舌下面には稀ならず味蕾乳頭が見られるが, この中には茸状乳頭に於けると同様な知覚終末を見る. その他稀に上皮下に陰部神経小体第I型に類似の小体様終末が形成される.
舌背の固有膜内にも陰部神経小体第I型類似の終末小体が稀ならず発見される. 之は舌下面のものよりは一般により大型である.
舌尖腺の腺管に沿って知覚終末の形成を見る. 之は太さの変化に富んだ終末枝から成る複雑性分岐性終末で表わされる許りでなく, 非被膜性糸球状終末で表わされ, 且つ終末枝の1部は更に腺管内に進み上皮内線維に移行する.
著者の最も大きな貢献は舌尖の粘膜下膜及び筋組織の中に複雑に構成される特殊分岐性終末を可なり多量に発見した事である. 本終末は1-2の太い知覚線維が特殊核に富んだ終末領に達するや太さの変化に富んだ多数の分枝に岐れ, 之等は全く不規則な迂りを走って終るが, その経過途上又はその先端部に原線維性拡散を示している, 即ち血圧下降反射に関する知覚終末第I型に類似する, 然し又陰部神経小体第III型に類似する場合も亦少なくない. 何れにもせよ, この様な甚だ複雑に構成される特殊分岐性終末は極めて高級な感受装置を示すものであろう事は疑う可くもない.

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© 国際組織細胞学会
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