抄録
生体にヒスタミンを皮下注射すると胃腺主細胞及び膵細胞の分泌顆粒新生が促進されることは既に明かであるので, 著者等はこの効果が真にヒスタミン自体に由来するのか否かを明らかにするために, 生体外に摘出した胃及び膵を用いて胃腺主細胞と膵細胞に対するヒスタミン効果を検索せんとした. そのため空腹時の胃と膵を取材し, 取材直後固定した場合と取材直後 Tyrode 液に入れ一定時間後に固定した場合を比較し, また給食1時間後, ヒスタミン皮下注射1時間後に夫々取材して Tyrode 液に入れて後に固定した場合を観察し, 生体外に於て胃腺主細胞, 膵細胞の分泌機能営為能力が如何に保持されるかを検した 次でまた Tyrode 液中へ0.3乃至0.01%の割にヒスタミンを添加した各種濃度のヒスタミン-Tyrode 液中へ空腹時の胃と膵を入れ, 胃腺主細胞及び膵細胞の分泌機能的活動を観察した. 得たる結果は以下の如く要約される.
1. 摘出した胃の胃腺主細胞は Tyrode 液中に於てかなり長く分泌機能営為能力を保持している.
2. Tyrode 液中へヒスタミンを添加するとヒスタミン濃度によって胃腺主細胞には明かな分泌顆粒新生が認められる. それは0.3%ヒスタミン-Tyrode 液中にて最も顕著で, 0.2%, 0.1%と順次低調となり, 0.05%以下では殆んど効果が現われない.
3. Tyrode 液中では胃腺主細胞分泌顆粒の空胞化は細胞の変性に随伴する以外は殆んど見られない.
4. 充分のヒスタミンを添加すると生体外に於ける胃腺主細胞の退行変性の発現が遅延する.
5. 膵細胞では生体外に於ける細胞変性が胃腺主細胞に於けるよりも早く現われる.
6. ヒスタミン-Tyrode 液中では膵細胞にチモーゲン顆粒の新生が見られる. 0.3%液中で最も顕著であるが, ヒスタミン濃度が減じるに従い低調となる. しかし0.05%液中でもなお若干その活動が見られるが, 0.03%以下の液中では全く見られない.
7. Tyrode 液及びヒスタミン-Tyrode 液中ではチモーゲン顆粒の放出を見ない.
8. これらの所見から生体内外を問わずヒスタミン自体が胃腺細胞及び膵細胞の分泌顆粒新生機能を剌戟促進するものであることが明かである.