抄録
蔗糖添加の1%四酸化オスミウムで固定した成熟アカハライモリの虹彩を, 光学顕微鏡的染色標本と対照しつつ電子顕微鏡で観察して, 組織肥満細胞の微細構造を検索した.
胞体は特殊顆粒で充満され, 核質は一般に電子密度が高く, 屡々圧迫されて特殊顆粒に一致した凹凸ある輪部を示して特有な外観を呈するものが多かった.
特殊顆粒は限界膜を有するものや, その膜の一部が消失したものや, 膜を全く有しないものが見られる. そして細胞には, 1. 散布密度が種々で, 輪郭が不鮮明な微粒子と, 明るい均一無構造の物質とから構成された種々の電子密度を示す母質と, 電子密度の高い通常不正円盤状の「中盤」とからなり, 母質の電子密度の著しく高い顆粒が胞体内顆粒の大部分を占める暗細胞と, 2. 母質の電子密度の低い顆粒がその大部分を占める明細胞の2型が存在し, 両者の中間型もみられた. また, 大顆粒性細胞と小顆粒性細胞の2種類が存在した.
中盤は電子密度の高い巾40-50Åの層と, それよりやや巾の広い電子密度の低い層とが盤の平面に平行に積重なった直線状層板構造をなすものが大部分を占め, 後者の層は屡々空泡状の拡張を示し, 中盤の分裂, またはその過程を思わせる像がみられた. また, 中盤が非常に薄いかまたは消失している顆粒を含む細胞や, 中盤の電子密度が著しく低下して膨化した無構造の物質になっている顆粒を含む細胞もみられた. 著者等は暗細胞と明細胞とは同一型の細胞の機能的周期の異相を示すものであり, 顆粒内微細構造の形態的多様性はそこで作られる物質の多様性のためと考えた. 尚, 顆粒間細胞質は一般に極めて乏しく, そこに少数のミトコンドリヤ, Golgi 体, 小胞体等がみられた.