抄録
ジュウシマツの砂嚢とマウスの腸間膜における脂肪細胞を電子顕微鏡で観察し, WOOD (1967) がニワトリの骨髄の脂肪細胞で観察したと同様のフィラメントを脂肪小滴の表面に認めた. このフィラメントは直径80∼100Åで, 脂肪小滴の表面に 一定の方向性をもって200∼300Åの間隔で配列している. とくにジュウシマツでは マウスに比較してその間隔が一定であり, 方向性も明瞭である.
このフィラメントは ジュウシマツの場合 脂肪小滴が大きくなっても 各小滴間にのこって その形態を保持しているが, マウスの場合 脂肪小滴が大きくなるにつれて その表面に見られなくなってゆく. このことは 鳥類では脂肪細胞内の多数の脂肪小滴が融合することなく大きくなり (VAGUEとFENASSE 1965), 哺乳類ではそれらが融合して 一つの大きな脂肪滴となる (HAMMAR 1895) という事実に関連をもつと思われる. すなわち上記のフィラメントは脂肪小滴の形態保持と同時に その融合を阻害していると思われる.
このフィラメントは脂肪細胞の細胞質に見られるフィラメントと同じ直径を有し, 部分的に連続する像が見られる. したがって脂肪小滴の表面のフィラメントは 細胞質内のフィラメントが そこに規則正しく集合して出来たものと考えられる.
脂肪細胞の細胞質と脂肪小滴との間には unit membrane は認められず, 厚さ20∼30Åの連続した一層の膜様構造が見られた. これは脂肪小滴表面に一層に配列した脂質分子の層の外側に 蛋白分子が加わって生じた界面構造ではないかと推測される.