抄録
系統発生学的観点より, 真の正中隆起と視床下部-下垂体門脈系を欠くカワヤツメ (円口類) を材料とし, 脳のモノアミン含有細胞の分布をFALCKとHILLARPによる螢光組織化学的方法で検索し, つぎの4群の螢光を発する細胞を認めた.
1. 嗅上皮下に螢光性ニューロンが認められる. その軸索突起は嗅神経を経て脳内に入り, 他のニューロンとシナプスを形成するものと考えられる.
2. 視葉脚と延髄前部に脳室縁とほぼ平行的に配列する螢光性ニューロン群がみられたが, その軸索突起の走行は明確にできなかった.
3. 松果体には特異な突起をもつ螢光性の細胞がならんでいるのがみられ, これらはその配列と形態より, 松果体の感覚細胞に相当するものと想像された.
4. 視床下部後方陥凹および第三脳室陥凹底の周囲には, 上衣細胞とは異なる螢光性の細胞が配列している. これらは脳室内に突起を出し, その尖端は水滴状にふくらんでいる. また反対側により細く長い線維がみられ, 双極細胞と考えられる. フォルムアルデヒド処理標本と非処理標本の比較および水素化ホウ素ナトリウム試験の結果, これらの細胞はモノアミンの担体と想像される.
5. これらの特異な形態をした細胞は, 硬骨魚の視床下部にみられたカテコールアミン含有細胞と相同であろうと考えられる.
なお下垂体および視束前核には, 螢光を発する神経細胞や神経線維を検出できなかった.