抄録
C57BL系成熟マウスの足底部エックリン汗腺を四酸化オスミウム単独あるいはグルタールアルデヒドと四酸化オスミウムの混合液によって固定し, 電子顕微鏡で観察を行なった.
エックリン汗腺の分泌部は腺細胞と筋上皮細胞から成る. オスミウム単独固定後, 腺細胞はほとんど均一に見えるが, グルタールアルデヒドとオスミウムの混合固定後は, 核, 細胞質ともに電子密度のはなはだしい変異を示す. 従って後者の固定法を用いた試料は, 3段階の電子密度を示す腺細胞, すなわち暗調, 中間調および明調の細胞を有する.
暗調細胞の微絨毛は最も短かく, 中間調細胞は中等度で, 明調細胞は最も長い. このことは暗調細胞が細胞の収縮の結果出現することを示唆している. 暗調, 明調細胞の別が生ずるのは, 固定時の人工産物であるか, あるいは個々の細胞の含水量に病的不均衡を生じた結果である可能性が高い.
ヒトとサルのエックリン汗腺の分泌空胞は, グルタールアルデヒドとオスミウムの固定によって暗い顆粒としてあらわされることが知られているが, マウスの汗腺の分泌空胞はオスミウム単独固定の際のみならず, グルタールアルデヒトとオスミウムの二重あるいは混合固定後も, 常に明るい. このことはマウスのエックリン汗腺の分泌空胞内の物質と, ヒトとサルの汗腺の分泌物質との間の僅かな化学的差異を示唆するものである.
ヒト, サル, ネコなどのエックリン汗腺には細胞間細管がみられ, もっぱら明調細胞によって囲まれている. しかしマウスとラットのエックリン汗腺には細胞間細管がなく, 〓歯類の汗腺は構造上原始的であるといえる.
この研究において始めて, 滑面小胞体が動物のエックリン汗腺に発見された. ヒトのエックリン汗腺では, 滑面小胞体はもっぱら基底 (明調) 細胞に出現し, 分泌空胞は表層 (暗調) 細胞に多い. マウスではこの両者が混合して同一細胞に現れるので, マウスの汗腺は未分化な状態にあると言える.
上述の諸事実はすべて, 〓歯類のエックリン汗腺の腺細胞が単型であることを示唆するものである.
真皮内および表皮内導管の微細構造が記され, 導管細胞の角化過程について論じられた.