抄録
マウス胃粘膜の表在上皮細胞, 主細胞, 副細胞および旁細胞の生理的再生と, それに随伴して起こる細胞内構造の形態学的分化の過程を電子顕微鏡により観察した. また細胞のDNA合成能力を3H-thymidine による電子顕微鏡オートラジオグラフィーにより観察した.
1. 胃腺狭部には未分化細胞が存在する. 未分化細胞は分裂能力を有し, 表在上皮細胞および副細胞に分化する. またおそらく主細胞や旁細胞にも分化すると思われるが, 確証は得られなかった.
2. 幼若な表在上皮細胞は狭部および胃小窩下部に存在し, 細胞分裂を行なっている. これらの細胞は胃小窩壁を粘膜表面に向かって移動するに従って成熟する.
3. 副細胞 (とくにその幼若型) は狭部および頸部で分裂能力を持っており, 狭部より頸部に向かって移動し成熟する.
4. 主細胞の幼若型は腺底部の上部ではじめて同定できた. 腺底部上部の幼若主細胞は分裂能力をもっており, 深部への移動とともに成熟して, 典型的な主細胞の構造をもつようになる.
5. 旁細胞の最も原始的なものは腺狭部に認められ, 腺底部に向かって移動するとともに成熟して典型的な旁細胞となる. 旁細胞の分裂能力を証明することはできなかった.
6. 副細胞からの転化 (transformation) により, 主細胞や旁細胞がつくられるという学説を支持するような所見は得られなかった.