抄録
ニホンアカガエルの後期胚を用い, 発生中の歯列ひだにおけるメルケル細胞の出現と分化を電子顕微鏡で観察した.
もっとも未分化なメルケル細胞は直径約90nmの有芯顆粒の存在によって他の未分化な細胞から識別され, このような細胞は未分化な歯列ひだの上皮中に見いだされた. 歯列ひだ原基の形態分化にともない, 未分化メルケル細胞は, 有芯顆粒の増加, 指状細胞質突起の形成, 神経線維との接触など, 細胞分化の進行を思わせる変化を示した. 歯列ひだの形態分化がほぼ終了したステージ25では, メルケル細胞の分化はかなり進み, トノフィラメント様細胞内線維とグリコゲン粒子の蓄積がまだみられないほかは, 成熟メルケル細胞に酷似する形態を示した. またメルケル細胞は細胞分化中に歯列ひだ上皮の基底層から第3層目に移動する. 一方いずれの発生段階でも, 歯列ひだ原基の下層の間葉組織中には, メルケル細胞や未分化メルケル細胞と思われるものは認められなかったので, 無尾両生類の歯列上皮のメルケル細胞は上皮内分化を遂げるものと考えた.