Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
ラット空腸における円柱状吸収上皮細胞と杯細胞との移行について
黒住 一昌四分一 泉登坂 久美
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1981 年 44 巻 5 号 p. 405-427

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抄録

腸粘膜の杯細胞の起源については諸説があって, まだ完全には解決されていない. われわれはラットの空腸上皮を電子顕微鏡で観察し, 吸収上皮細胞と杯細胞の間に移行があることを示す形態学的証拠を得た. 腸の絨毛および陰窩の両者をおおう円柱上皮細胞は, いずれも吸収機能を示唆する像を有する. これらの細胞は遊離面の微絨毛間隙につながる表面陥凹を備えている. 吸収された脂質は細胞表面に近い細胞質内に出現する小胞の内部に存在し, この吸収された脂質に由来する乳糜粒 (カイロマイクロン) は, ゴルジ装置の近くにある大きな空胞に含まれている. ラット乳児の腸内腔に人工的に注入されたフェリチンは, 円柱上皮細胞の遊離面直下の細胞質に出現する空胞に取り込まれている.
陰窩上皮に存する未熟な杯細胞は, 吸収上皮細胞に見られるものと全く同様な表面陥凹と水解小体 (ライソゾーム) を有する. このような未熟杯細胞によつて吸収された脂質滴は, 未熟な粘液果粒の間に散在している. 人工的に腸腔に注入されたフェリチンは, 杯細胞のゴルジ装置付近にある空胞内あるいは水解小体内に発見された. ラット乳児の腸絨毛にある杯細胞の微絨毛および細胞質の基質は, 周囲の吸収細胞のそれと同様に明るい. このように明るい細胞質を有する未熟な杯細胞と, 暗い細胞質を有する成熟した杯細胞との間には, 明らかに移行が見られる.
以上の形態学的証拠は, すでに吸収細胞へ分化した円柱上皮細胞が, 粘液を分泌する杯細胞に変る可能性を示すもので, 陰窩底にある未分化な円柱上皮細胞のみならず, かなり分化して吸収機能をもつに至った円柱上皮細胞が, さらに杯細胞に分化し得ることを示唆する.

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© 国際組織細胞学会
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