抄録
犬子宮膣神経叢の神経節内神経細胞は神経突起の発達状態に於て人間の夫よりも遙かに劣勢の様であり, 神経突起を所有しない幼若型も多数認められる. 然し Dogiel 氏第I型及び第II型細胞の存在も見られ, 特に前者は後者を量的に凌駕する. 又神経節内にはパラガングリアの存在を見るが, 其量も人間の夫に比し遙かに少い.
犬子宮膣神経叢は子宮頸と子宮広靱帯との間に存する広い結合織層及び之に続く子宮体部及び角部に於ける同一層内に迄も延びている. 但し之等の部には神経節は証明されない. 此結合織層は子宮靱帯の背腹両縦走筋から続く子宮の外縦層筋と子宮固有の内輪走筋との間の結合織に続く. 従って子宮に対する神経線維は此神経叢から分れて両筋層内に進み, 其一部は更に固有膜にも入る.
月経現象を示さない犬等で仮令少量ではあるが子宮粘膜内にも植物神経の進入する事は, 未だ月経のない人胎児で其存在が明かである (西村, 及川) 事に徴しても甚だ自然な事と思考される.
植物線維の終末は犬子宮でも終網 (Stöhr) に依って表わされる. 特に筋膜及び子宮頸粘膜内に著明に形成される. 又子宮腺の著明な発達を示す子宮各部の粘膜内にも其形成が見られる.
子宮膣神経叢内に僅少乍ら太い有髄性知覚線維が証明される. 其終末は尖鋭状に終る非分岐性及び単純性分岐性終末として専ら筋層内に形成される様である.
