2022 年 70 巻 1 号 p. 55-64
大気における CO2 レベルの上昇による海洋酸性化は,一つの地球環境問題として重大な課題である。CO2 レベルの上昇は,魚の耳石に大きな影響を与えることが示されてるが,これらの影響の原因が H+ であるか HCO3- であるかは不明である。本研究は,マコガレイの幼魚をモデル生物として,H+による酸性化が魚の耳石に及ぼす影響を調べた。対照区(pH 7.8)および2つの濃度の HNO3 処理区 [pH 7.5および pH 6.8] で,2月間の飼育実験を行った。主成分分析の結果,pH 6.8処理区では,対照および pH 7.5の処理よりも耳石のサイズ(周囲長,面積,耳石幅,耳石長)が大きくなる傾向を示した。ANOVA の結果,HNO3 区と対照区の間に(主に solidity:面積包絡度)有意な形状の違いがあることを示した。これらの結果から,H+ が,海洋酸性化によって滑らかな耳石形状と耳石の大型化を引き起こす可能性が示された。